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[12] あやか

投稿者: フォフ 投稿日:2017年12月16日(土)21時31分34秒   通報   返信・引用 > No.11[元記事へ]

「広瀬の部屋に行きたいんだが、都合のいい日を教えてくれ」
 彼からそう言われて、広瀬彩海は一瞬、言葉に詰まった。
 改めて連絡する、と言うと彼は、出来るだけ早く頼む、と付け加えた。
 そんなこと言われても心の準備が。
 喉元まで出かかった言葉を飲み込んで、頷くのが限界だった。
 彼と付き合うことになって数か月。
 とうとう、“その時”がやってくるのだろうか。
 家族の予定を確認すると、妹は宿泊学習、共働きの両親は出張だったり夜勤だったりで、深夜までは自分1人と言う日があった。あってしまった。みつかってしまった。
 しかも、レッスンもイベントもなく、まるで調整したみたいに何もない日だった。
 これまでも年に何度かはあったけれど、こんなタイミングで、嘘みたいに、都合がいい。都合がよすぎる日。近いうちのこんな日があると、知ってて言ったんじゃないかっていうくらい。
 わずかばかりのためらいの後、彼にその日を伝えると、学校が終わったらそのまま行くと返事があった。
 そ、そのまま……
 まじか。
 これはもう、覚悟を決めるしかない。
 色っぽい下着を準備して……さすがに学校には着ていけないから、シャワーを浴びたときにそれに着替えて……
 部屋を片づけておかないと。飲み物とかお菓子とか……遅くまでいるなら、ご飯もいる。料理には自信がない。ファミレスか、ピザでもとればいいか。
 あとは何を準備しておけばいいんだろうか。
 こういうときこそ本を読もう。
 スマホで調べるのもいいかもしれない。
 そうだ、ダイエットしなきゃ……って、間に合わないし。
 軽いパニック状態。
 まだ少し先のことなのに、もう心臓が痛いほど激しく高鳴っている。
 スマホを放り出して、ベッドに飛び込む。
 枕に顔を突っ込んで、目を閉じた。
 浮かぶのは、彼の顔。
 鉄面皮。無表情。
 でも時折見せる、無防備な表情。
 はあ、と枕に吐息を染み込ませる。
 自分ってこんなんだったっけ。
 彼と会ってから、自分が随分と変わってしまったような気がする。
 浮かれているなあと言う自覚はあるけれど、抑えられない。

 今夜も眠れそうにない……



 眠れそうになかったあの夜は何だったんだろう。
 彩海は目の前に積まれていく本を見、ため息をついた。
 彩海の部屋に行きたいと彼に言われた時、いよいよその時が、と覚悟をしたものだった。
 だが。
 彼は予想に反して、というか、予想だにしなかった行動をとっている。
 部屋に入るなり、手袋をはめ、彩海の本棚から本を抜き始めた。
 茫然としながらも、何をやっているのかと聞くと、
「この前ブログに載ってた画像を見て、この本棚だけは許せんと思ったんだ」険しい顔をして彼が言う。
 許せん、ときたか。
 確かに整理整頓は苦手だ。
 彼が来るので、部屋は片づけたけれど、本棚はそのままにしてあった。そこまで手が回らなかったし、手の施しようがないと判断した。
 それがまさか。
 彼の訪問理由だとは。
 図書委員だけあって、なのか、あっという間に本棚が空っぽになり、サイズごとに分けられて積み重なった本は、高層ビル街のごとくだ。
 彩海はそれを、ぼんやりと見ているだけだった。
 自分の本棚であるし、自分がやらないとと思って手を出そうとしたのだが、彼は、
「広瀬はそこでお茶でも飲んでいてくれ」と、やんわり断られた。
 おそらく、この件に関して彩海は役に立たないと判断されたのだろう。
 悔しいが、妥当な判断だと言わざるを得ない。反論できない。
 というわけで、洗い立てのシーツの上で1人、彼の後姿を見つめている。
 いつもは無表情の彼も、なぜか楽しそうな雰囲気だ。今にも鼻歌でも聞こえてきそうな、そんな表情が、ちらちらと見える。
 鉄面皮で不気味である、なんて、学校では噂されている彼だが、付き合っているうちに細かな表情の変化が分かるようになってきた。
 嬉しいと小さく頬が緩むとか、照れたときに少しだけ眉を上げて目を逸らすとか、怒った時に目じりがきつくなるとか。分かってくると面白くて、もっと知りたくなる、もっと、好きになる。
 それに、意外と大胆と言うか、思っていたより積極的と言うか、ドキドキさせられることがある。
 デートの時にも当たり前のように手をつないできて、それも恋人つなぎで、驚いて手を引っ込めてしまったくらいだ。
 彼は謝っていたけれど、びっくりしただけ、と謝り返して、彩海から手を差し出した。心臓が爆発するんじゃないかと思うくらい、ドキドキした。
 なんとなく、クッションを抱き寄せて、唇を尖らせた。
 彼は黙々と作業を続けている。サイズごとに分けてあった本を、今度はシリーズごと、作者ごと、出版社ごとなんかで分けて行って、てきぱきと本棚に納めていく。不思議なことに、本と本棚の隙間に、横向きで詰め込むように置いてあった本まで、すっきりと本棚に揃えられている。魔法でも使っているとしか思えない。
 ほんの1時間ほどで、見違えるように整えられた本棚が出来上がった。
 よし、と小さくつぶやいた彼が、手袋を外して鞄の中にしまい、ベッドの上、彩海のすぐ隣に腰を下ろした。
 ぼすんと、スプリングを軋ませて、彩海の心臓ごと、ベッドが弾む。
「これが正しい本棚っていうもんだぞ」
 やり遂げた男の横顔があった。
「うん、ありがと」
 本棚から本を抜き取り始めたときは、いったいどうしたものかと思ったけれど、本棚がきれいに整理されたのは、素直にありがたい。
「ところで、けっこう騒がしくしちゃったけど、家の人迷惑に思ってないかな」
「……あー、今日、誰もいない……」
「そうか」
 沈黙。
 遠くで車が走る音が聞こえてくるほどの静寂が、部屋に満ちた。
 あれ、と彩海は思う。
 本棚の整理をし始めたときは、てっきりそんな雰囲気にはならない、自分が勘違いしてしまっただけだと落胆と羞恥が入り混じった感情が渦巻いていたというのに。
 彼の方にちらりと目を向けると、こちらをじっと見つめていた。
 あまりにも真剣な視線に怯んでしまい、視線を落とすと、寄り添う彼の手が、彩海の腰に回された。
「きゃっ」
 思わず声が出る。
 驚いて身を捻った拍子にバランスを崩し、仰向けに倒れてしまった。
 スカートの裾が気になったが、すぐにそれどころではなくなった。
 彩海を追うように、彼が覆いかぶさってくる。
「あっ」
「広瀬……」
 ほんのりと上気した彼の顔が、近づいてくる。
 目蓋を降ろしそうになって、
「ちょ、っと待って……!」と、彼を止める。
 彼はその声に、目が覚めたような表情になり、
「ごめん」
 と、離れそうになったが、肩のあたりをつかんで、それを引き留める。
「違う、その、そうじゃなくて……嫌じゃなくて……」顔から火が出そうなほど恥ずかしい、というのはこういうことなのか、と、どこか他人事のように感じている、冷静な自分がいる。「シャワー、浴びたい……」
 絞り出すように言った彩海に、彼もうなずいて、体を起こした。
 彼の視線から逃げるように背を向けた。
「……その、ちょっと、待ってて」
「うん」
 彼の返事を背中で聞いて、半ば逃げ出すように部屋を飛び出した。





 こちらに背を向けて、上着と短パンを脱いだ広瀬。レースがあしらわれたそろいの青い下着が、ふっくらした体に食い込んでいる。
 それを見ると堪らない気持になる。
 広瀬の手が背中に回されて、ブラのホックをはずそうとするが、震えてうまくいかないようだ。
 それを助ける、というよりは、もう待ちきれないので、広瀬の背後に立ち、
「外すよ」と声をかけた。
 ビクリ、と震える広瀬だったが、しばしの逡巡の後、頷いてくれた。と言っても、本などで読んだ知識しかないけれど。
 指先が背中に触れて、
「ぁっ」広瀬が小さく声を漏らす。
 慌てた様子で口を塞いで、背中越しにこちらの様子を窺っていた。
 滑らかな肌は、熱いくらいに火照っていて、広瀬の緊張が伝わる。
 外すなんて言い出したものの、僕の指先も震えていた。それでも、多少手間取ったものの、うまいこと外すことが出来た。肩ひもをずらしてやると、カップを押さえて、胸を隠しながらブラを床に落とした。
 大きく張り出した広瀬の乳房は、片手で、いや両手でも隠しきれるものではなく、押さえられて潰れているのが、背中越しに覗いても分かる。
 胸を隠しているので、片手でショーツを下ろそうとする広瀬の手を抑えて、こちらも脱がせる。
 腰から太ももを撫でながら、下着を脱がせると、大きくて張りのあるお尻が目の前にある。白くて丸くて、空気がパンパンに入った風船みたい。
「恥ずか、しいっ……」
 じろじろと向けられる視線を感じたのか、体を震わせながら、か細い声で泣くように呟く広瀬。
 立ち上がった僕は、後ろから広瀬を抱きしめる。
 びくんっ、と震え、体を硬直させる広瀬。
 抱きしめた拍子に、肉欲で膨れ上がった肉棒が広瀬の尻肉に埋まり、腰が浮き上がりそうな快感が走った。
 柔らかくて熱くて、気持ちいい。
「大丈夫?」
 抱きしめた広瀬の耳元で囁くと、耳にかかる息から逃げるみたいに身をよじり、
「うん……」こくりと頷いた。
 腕を解いて広瀬を振り向かせる。
 顔どころか首まで真っ赤にして、伏し目がちな広瀬。
 恥ずかしそうで、不安そうで、可愛かった。
 自分の体を抱きしめるみたいにして胸を隠しているけれど、とても隠しきれるサイズではなく、ほとんど球体のような豊かな膨らみが、広瀬の腕に潰されて、それが余計にいやらしく思えた。
 広瀬の頬に手を添えると、ためらいがちにこちらを見、瞳を泳がせる。
 顔を近づけていくと、潤んだ瞳を隠すように、瞼を下した。
 唇を重ねる。
 甘い味、なんてことはないけれど、甘い感触。やや固い唇は弾力があって、温かい。ちょっと癖になりそうな触感だ。
 ちゅ、と音を立てて唇を放すと、蕩けたような表情の広瀬が、僕を見つめてきた。
 このまま押し倒して、欲望のままに、広瀬をめちゃくちゃにしたい。
 そんな衝動を抑え込んで、広瀬をベッドに導く。
 ベッドの上に仰向けになる広瀬。撓んだ果実を両手で隠し、むっちりした太ももを必死に合わせて股間を隠そうとしている。もちろん女性器は見えないが、黒い茂みまでは隠せない。
 見惚れる僕に広瀬が突然、
「ごめん」と謝った。何事かと思えば、「太ってるし、スタイル良くないし……ごめん」
 何言ってるんだこいつは。
 ベッドの中ほど、広瀬の脇に上がって、胸を覆っているその手を取る。
 ちょっとだけ抵抗を感じたけれど、その手を引っ張り、股間で昂ぶっている剛直に触れさせた。
「やっ、な、なに!?」
 当然、驚いて手を引っ込めようとする広瀬だったが、それを許さず、強引に指を解いて肉棒を握らせる。その手を包み込む、というより抑え込むように、手を重ねる。
 ふわふわして蕩けるような手のひらの感触に興奮を高めつつも、
「広瀬の裸を見て、広瀬を抱きたいって思ってるから、こうなってるんだぞ。もっと自信持てよ」
 かっこつけなのか、カッコ悪いのか、自分でもよく分からない。
 まっすぐ見つめる僕の視線から、真っ赤な顔を泣きそうに歪めつつも、目を逸らすことも手を放すことも出来ない広瀬。
「こ、これって、喜んでいいこと、なの?」
「分からん。けど、僕は広瀬に握ってもらって嬉しい」
「き、君って……そんな、変なこと言うんだ……」
「うん、僕も驚いてる。たぶん、浮かれてどうにかなってる」
 強張っていた広瀬の頬が緩む。
「なんでこんな変な人好きになっちゃったんだろ」
 ひどいことを言うなあ。
「僕は、広瀬を好きになってよかったって思ってる」
「それはっ……わ、私も、だけど……」
 どこか、負けじと、と言ったふうに応える広瀬。
 かわいいな、と素直に思った。
 不意に、僕の肉棒を握る広瀬の手に、力が入る。
 きゅ、と締めつけられて、快感が走った。
 う、と息が漏れる。
「こう、すると、気持ちいいんだよね……?」
 そういうと広瀬は、肉棒を握る手をゆっくりと動かす。
 広瀬の手は自分の手とは違い、滑らかで柔らかくてふかふかしている。なんて表現するのが適切なのか、分からない。ほんの数回、上下に動いただけなのに、もうすでにこの手の虜になってしまいそうになっている。
「すごい、固くて、熱くて、びくびくしてて……」そういう広瀬の目は、好奇心が輝いていた。「気持ちいい?」
 僕は頷くだけだった。
 蕩けそうな快感に身を委ねていると、胸を隠していた広瀬の腕が解けているのに気付いた。薄い茶色と濃いピンク色の中間、というような色合いの乳首。乳輪は乳房の大きさに応じてやや大きめで、それがまたいやらしい。色白の広瀬の肌の中でも特に白い乳房は、潰れるように撓んでなお、大きさを誇示している。
 気づけば手を伸ばしていた。そうすることが当たり前みたいに。自然と。
 自分の手の中の感触に意識が向いていたせいか、広瀬は僕の手には気づかず、乳房に触れる瞬間、
「きゃっ」と、可愛らしく声を上げた。
 驚いて手が止まり、僕の方を見上げる。
 僕は彼女を見つめながら、手を動かした。
 初めて触る女性の乳房。初めての感触。
 このまま指が肌の中へ潜り込むんじゃないかというくらい柔らかくて、そのくせ瑞々しい弾力があって、やや高めの体温が心地よくて……いや、そんなもんじゃない。そんな言葉では言い表せない心地よい感触。読書量はそれなりにあると思っていたけれど、語彙が全然足りない。いや、この感動的なまでの感触を、的確に表現できる言葉なんてあるんだろうか。
 病みつきになりそうな感覚。
 僕が手を動かすたび、指に力を込めるたび、広瀬が身を捩り、息を乱れさせる。
「んっ、ぅっ……ンンッ!」
 悩ましげに眉間に皺を寄せながら、目だけはなぜか、戸惑っているような、不思議そうな様子で丸くなっていた。
 表面を撫でるように優しく、指を食い込ませるほど強く、広瀬の乳房の感触を味わう。皮膚とは違う感触の乳首を指先で弄び、体をくねらせる広瀬に見惚れる。
「ぁぅ……う、ふあ、く……んっ」
 湿度の高い、悩ましげな吐息が、広瀬の唇から溢れ出る。
 広瀬の手を離させて、身を屈め、体に覆いかぶさるように、顔を乳房に近づける。近くで見るとさらに大迫力だった。
 ピンと勃ち上がった乳首を口に含む。
「ぅあ、ぁあッ!」
 背筋を反らし、悲鳴じみた嬌声を上げる広瀬。ふわふわの球体が顔に押し付けられ、息が止まりそうになる。
 口の中で尖った粒を舌先で転がすたび、
「んあっ、あっ、ん、んんッ、ぁうッ!」体をくねらせる広瀬。
 固いような柔らかいような、不思議な触感。食感?
 片方を口に含みつつ、もう片方は手で弄ぶ。
「ふ、ぅああッ、あ、ぁんっ、あっ」
 僕の舌、僕の指の動きに、敏感に反応し、身を捩り、艶っぽい声を上げる。
 気持ちいいんだろうか。
 その姿を、いつまでも見ていたい気もするけれど。
 このままだといつまででも乳房の感覚を堪能してしまいそうだったが、滾る欲望が僕を突き動かす。
 体を起こし、丸みを帯びていて、それでいてダンスで鍛えられた筋肉が浮き上がる、引き締まった太ももに手を置いて、広瀬を窺う。
 広瀬は僕の意図するところを分かってくれたようで、閉じ合せていた膝から、力を抜いてくれた。
 脚を開かせて、露わになるオンナの部分。
 肉感的な太ももの奥、黒い茂みの下で、わずかに綻んだピンク色の粘膜が顔を覗かせている。
 そこはもう、はっきりと濡れていた。
 女芯の奥から溢れだした液体が、肉唇を滑り降りて菊門の方にまで滴っている。
 胸を触られていただけでこんなに……
 広瀬はどんな表情をしているだろうかと気になり、ちらりと視線を上げると、恥ずかしさも極限なのか、瞼を固く閉じていた。
 赤みを帯びた淫裂を指でなぞる。
「あうんっ」
 広瀬の体が跳ねた。
 媚肉をくすぐるように指を動かすと、広瀬は堪らない様子で腰をくねらせた。
 後から後から溢れ出てくる愛蜜を、塗り広げるようにする。
「っやぁ、やだっ、ああっ、ンッ、ぅああぁっ!」
 僕の指の動きに合わせるみたいに、腰をくねらせている。
 指を動かすたびに、愛蜜をあふれさせる広瀬の花びら。
 なんていやらしい光景なんだろうか。
 へその下で充溢した性欲が、爆発しそうになっている。
 耐えられない。
「広瀬」
 僕が呼び掛けると、固く閉じていた目蓋をうっすらと開けて、こちらを見る。
「もう、その……いいかな」
「き、聞かないでよ、そんな……」
「ごめん、でも」
「……いいよ」
 目を背けながら、広瀬がかすれて消え入りそうな声で、答えた。
 なんてことを言わせているんだろうか、という気がしなくもないけれど、滾る欲望が、僕を突き動かす。
 情欲ではち切れそうな肉棒を、広瀬の粘膜に押し付ける。
「んっ」
 濡れそぼった秘肉に触れた欲棒の先端から、びりびりと電流のように、快感が駆け上がる。
 綻んだ肉唇の穴に、肉棒を沈み込ませていく。
「ぅぅっ、イッ……!」
 広瀬の表情が歪む。
「大丈夫?」
 亀頭が広瀬の中に隠れたあたりで腰を止め、様子を窺う。
「だ、だいじょぶ……我慢できる……」
 痛いことは痛いのか。
 けれど、押し寄せてくる快感には抗えず、広瀬の体を抱きしめて、進入を再開させた。
「くぅ……」
 シーツをつかんでいた広瀬の手が、僕の首に回される。しがみつく広瀬の乳房が、僕の胸で潰された。
 ぬるぬると、潤滑液に助けられ、温かい深みの奥へと到達した。
 広瀬の口から、甘い響きが混じった吐息が零れ、僕の耳元を湿らせる。
「大丈夫か?」
 もう一度、問うと、広瀬は、
「大丈夫……最初、ピリッと来たけど、思ったほど痛くは、なかった……」荒い息で声を揺らしながら、答えた。
 それならいいけど。
 初めて経験する女性の内側の感触。とろとろしていて、ふかふかで。膣襞が肉棒に密着して、息が詰まるほどの快感が、せりあがってくる。
 ぴったりと隙間なく密着して、肉欲とは別の満足感も湧き上がる。
「お腹の奥が……広がってて……私の中、いっぱいに、なってる……」
 どこかうっとりとした声で、広瀬が言う。
 広瀬と、ひとつに、なっている。
 視線を向けると、広瀬の潤んだ瞳と重なり、どちらからともなくキスをした。
 さっきよりも、熱い唇。そして、どちらからともなく、唇を開いて、舌を絡める。
 どうすればいいのか、どうしてあげたらいいのか分からない、というか、そんなこと考えられない。
 舌をうねらせ、唾液に塗れた広瀬の口腔を味わう。
 広瀬の熱い吐息が僕の口に放り込まれて、興奮が高まる。
 密着していた腰をゆっくり動かして、広瀬の中を掻き回す。
「……ぁぅっ、んッ、ぅ……」
 重ねた唇の隙間から甘い声がこぼれる。
 ふわふわした柔肉に包み込まれたかと思えば、腰を引いていくと、逃がすまいと張り付いてくる襞壁。
 愛蜜に促されるように奥へと押し込めば、柔らかく飲み込んでいき、引き返すと握りしめるような強さで締め付けてくる、広瀬の媚肉。
 目眩がするほど気持ちいい。
 広瀬の中を往復しているうち、息苦しくなって、唇を離す。
「あっ、ん、あぁっ! あんっ! ふあぁっ!」
 解放された唇から飛び出す広瀬の嬌声。
 真っ赤になった頬が、今にも蕩けそうに緩んでいる。
 僕の方も、押し寄せる快感の波に流されて、更なる快感を求めて、腰の動きを早くしていく。
「ああっ、やぁんっ、強……あ、ああッ!」
 突然の転調に戸惑い、眉根を寄せる広瀬。
 僕の腰の動きに合わせて、豊満な乳房が波打つように揺れている。
 亀頭の先端が広瀬の膣奥を突くたび、肉棒を包み込む襞壁が狭まり、脈動するように締め付けられる。
 理性がどんどん溶け出して、肉欲に変化していく。頭の中を欲情だけで満たされていく。
 思考を支配する欲望に突き動かされるがまま、広瀬のお尻に、腰を打ち付ける。
「やぁっ! はぁっ、あぁんッ、んんぅ、ぅぁあッ!」
 広瀬の喘ぎの間隔が短くなってきて、それに同調するように、僕の方も限界が近づいてきた。
「はぅッ、ぅあぁっ! や、やぁあんッ! ああん、はッ、あっ、────ッ!」
 不意に、広瀬の喉から声と言うより音という表現が近しい悲鳴が迸り、同時に体が、弓なりに反る。
 瞬間、膣道が深く、激しくうねり、精液を搾り取ろうとするかのように蠕動する。
 僕は耐え切れず、広瀬の奥深くに肉棒を押し付けて、根元まですっぽりと包み込まれ、性欲を解放した。
 破裂するような勢いで駆け抜ける精液が、広瀬の内側に溢れていく。
 射精の脈動さえも、膣襞に擦れて気持ちいい。
 貯蔵されている精液をすべて吐き出したんじゃないかというくらい、長い長い射精が終わって、ようやく理性が帰ってくる。
 目の前には、汗だくの広瀬が、荒い息で胸を上下させていた。
 汗できらきらする広瀬の頬を撫でる。
 ぴくり、と震えて、ゆっくりと瞼を開けた広瀬が、僕を見つけて、困ったように瞳を揺らした。
「どうした?」
「……い、いっちゃった……」初めてなのに、と戸惑い気味の広瀬。
「広瀬が気持ちよくなってくれて、嬉しいよ」
「……う、うん」頷き、やはり目を逸らしたまま、「き、気持ち、良かった?」
 と聞いてくる。
「気持ちよかった、っていうか、今も気持ちいいというか」
 入ったままの肉棒は、硬度を維持したままだった。
 広瀬は目を丸くしていたが、やがて、
「いいよ、満足するまで、してくれて……アヤカも、気持ちよかったし……」
 ドキリ、とする。
 普段の一人称は「私」のはずだが、たまに自分の名前が一人称になる時がある。
 たいていは、甘えているとき。
 かわいくて、抑えが効かなかった。

 四つん這いにさせて、お尻を掴みながら腰を振り、射精する。射精しながらも腰を振り続け、広瀬の上に覆いかぶさり、乳房を掴み、さらに精液を吐き出す。
 後ろから抱きしめる格好で広瀬を突きながら、大きく弾む乳房をつかむと「もっと……もっと、おっぱい触って……おっぱい気持ちいいの……」と、いやらしい言葉をこぼす。指を食い込ませるようにたわわな果実を愛撫すると、僕の肉茎をきゅんきゅん締め付けてくる。
 仰向けになった僕に跨り、腰を振る広瀬。下から見上げると、大きな乳房が激しく揺れるのが、大迫力で見れて、興奮をさらに刺激され、広瀬の中で果てる。

 そうやって何度も何度も交わり、限界を超えてさらに限界に達して、ようやく僕らは繋がりを解いた。
 2人して仰向けに、ベッドに倒れこんだ。
 荒い息で天井を見つめていると、ようやく肉欲が大人しくなり、理性が立ち直る。
 なんていうか、ここまでのつもりはなかったのに、快楽に溺れてしまった。というか、広瀬の体に溺れさせられたというか。人のせいにするのは良くないけど。
 隣を見ると、汗まみれの広瀬が、薄く開いた目蓋から、焦点の合わない瞳を覗かせていた。
 愛しい気持ちで指を絡めると、それにすら、体をびくりと痙攣させている。
「……なんていうか、ちょっと、その……ごめん」
 僕が謝ると、
「なにが……?」息も絶え絶えと言った広瀬が、うつろな瞳をこちらに向けた。
「その……しつこすぎたというか……初めてなのに、ここまで、してしまってというか」
 広瀬は、ふ、と口元を緩くし、僕を安心させるように言う。
「私も、きもちよかった、し……その、発見もあった、というか」
「発見?」
 しまった、という表情の広瀬。
 たぶん、まだ理性が回復しきっておらず、言うべきではないことを口にしてしまったようだ。
 瞳を泳がせる広瀬に、
「発見てなに?」と、さらに問う。
「……む、胸を、触られるの、気持ちよくて……自分で触っても、そんなことなくて」
「自分で触るんだ」
 僕の追及に、唇を尖らせつつも、なぜか目の奥にはとろりとした艶が宿っていた。
 不意に、重力で撓んだ乳房を揉む。
「あんっ、って、もう、無理だって……」
 あれだけ交わり、乱れたのだから、僕ももう満足しきったと思っていたのに、広瀬の胸を揉んでいると、鎮火したはずの獣欲が、再び熱を帯び始めるのを感じる。
 我ながら、こんなにも止め処ないものかと、呆れる。
「君が、あっ、私の、好きなところって、ぅっ、胸……だったり……? あんッ」体目当て?
「胸触られるのが気持ちいいって言ってのは、広瀬じゃないか」
「そ、だけど……ぅうんッ」
 体をくねらせつつも、僕の手からは逃げない。
「広瀬ってひょっとして、自分の胸、あんまり好きじゃない?」
「あッ……好きじゃな、かった……ぁっ、今は、んっ、そう、でもない、ふあっ、かも……」
「なんで?」
「い、言わせないでよっ」言わなくてもわかるでしょ。
 言わなくても判る、と思うけど。
「言ってよ」
 僕が告げると、少し怯んだような広瀬は、
「……君が、触ってくれると、んんッ、気持ち、良い、からぁっ……ああぁッ!」蕩けるような唇から、濡れた声で答えた。
 行為の途中でも、もしかしてと思ったけど、広瀬って責められるの好きなのだろうか。
 少し強めに揉むと、甘い声で体をくねらせる。
 治まったはずの媚熱を再点火させられて、苦しそうで、でもどこか、嬉しそう。
 真面目で、ひたむきで、それでいて、こんなにもいやらしい。
 もっともっと好きになる。
 本を読んでいる横顔も、
 僕に向ける淫らな表情も、
「好きだよ、広瀬」
 僕は大好きだ。




[11] あやか

投稿者: フォフ 投稿日:2017年12月16日(土)21時30分25秒   通報   返信・引用

「きもい」
 吐き捨てるように言った広瀬彩海が、本を放り出す。まるで、汚れているのに気付かずに、うっかり触ってしまったみたいに。
 広瀬の意志の強そうな目が鋭く引き絞られ、軽蔑の眼光が撃ち出される。
 狙い能わず僕の心を貫いていくが、表情には出さない。
「人の本、勝手に読んどいて言うことがそれ?」
 視線も言葉も効いていないと言う代わりに、鉄仮面のような無表情を広瀬彩海に投げつける。少し怯んだような様子で唇を噛み、制服のスカートを翻し、足早に図書室から立ち去った。
 小さく息を吐き出して、机の上に放り出された本を手に取った。
 図書室の本ではなく、私物の文庫だ。牡丹唐草柄のブックカバーが装着された小説。
 栞が挟んでるところを開いて、文字を目でなぞる。
 まあ、いわゆる濡れ場のシーンで、主人公とヒロインが結ばれている。シリーズ最新5巻にして結ばれた2人を祝福してやりたい気持ちだが、問題はきっと、このヒロインの名前にある。
 「彩海」という字を書くのだから、広瀬が自分のことと重ねてしまったのも、理解は出来る。
 殺人事件ではない様々な事件を解決していく、推理以外は役立たずと言う主人公が活躍する探偵もので、官能小説というわけではないから、小説を読む習慣のある人にならフツーにお勧めできるのだが、よりにもよってこのシーンを最初に読まれたのは、まあ、ご縁がなかったということかもしれない。いや、別に読んでいいとも、読んでくれとも言っていないわけだが。
 ……まあ、いいさ。
 椅子に座って、続きを読む。
 視線が文章を撫でていくけれど、文字の上を滑る。
 頭に浮かぶのは広瀬の顔だった。
 図書室で本を読む表情。真剣で、ひたむきで、物語の中に溶け込んでいくような、そんな顔で本を読む姿が印象的だった。
 そして、軽蔑の視線。
 栞を挟んで本を閉じる。
 どうにも、目が滑るというか、話が頭に入ってこない。
 これはひょっとして。
 失恋と言うやつだろうか……
 いや、まさかな。





 彩海は本を閉じて、枕元に放り投げた。
 ベッドに俯せになって本を読んでいたのだが、ちっとも頭に入ってこない。
 放課後、図書室でヌシとも呼ばれている、図書委員の彼の本を盗み見てしまってから、どうにも、もやもやが治まらない。
 ヌシなんて呼ばれるくらいの彼が、どんな本を読んでいるのか、単純に興味があっただけだ。
 好奇心猫を殺す、なんて言葉があるけれど、本当のことかもしれない。
 「彩海」という女性の濡れ場が書かれていた。
 それだけで充分戸惑っていたところに、盗み見ているのを見つかり、動揺してしまって、つい「きもい」なんて口にしてしまった。
 たぶん、というか、きっと、自分のことを連想して読んでいるわけではないだろうけれど。
 濡れ場のシーンなんて、小説ではよく登場していて、彩海も何度も目にしているはずなのに。まあ、読むたびにドキドキはしているけれど。
 ふう、と控えめに溜息をつく。
 彼は無表情で、どんなことにも動揺しないように見え、機械のようにページをめくる姿は、初めて見たときは、きもいどころか不気味に感じたものだった。「本を読むロボットが開発されました」というニュース映像を見ているような、奇妙な印象を受けた。
 けれど、一度、本を借りに行ったとき、無反応で、無視されたかと思った時があった。少し強めに声をかけると、彼は珍しく驚いた表情で、「本に没頭してて。ごめん」と少し照れながら詫びの言葉を口にした。
 その表情に、小鳥の鳴き声のような音を立て、胸が疼いたのは確かだった。
 あの本を、彼はどんな気持ちで読んでいたんだろうか。
 時間が許す限り、図書室に行って本を読むようになったのはそれからで、読書しつつも彼のことを気にしていた。
 本を読む彼の表情が、少し、いいなあ、と思ったのは、事実だ。
 同じ空間で、同じ時間を過ごす。
 まるで物語のようで、彩海にとっては大切な時間だった。
 なのに。
 はあ、と今度は大きくため息をつく。
 ひょっとして……
 なんて、考えてしまう。
 ひょっとして、「彩海」という名前だったことに、意味があるのだろうか。
 そんなわけはない、と理性が囁いても、もっと大きな衝動がそれをかき消す。
 大きく膨らんだ、クラスメイト達やメンバー達と比べても豊かな胸に、手をかぶせる。
 ドキドキする。ドキドキして、もどかしい。
 ナイトブラごしの自分の乳房に触れてみても、特別な感覚はない。二の腕や首筋を触っているのと変わらない。手を動かして揉んでみても、指から伝わる感触は、肩を揉んでいる時と変わらない。
 大きいと感度が鈍いと聞くけれど、その通りなのかもしれない。
 肩は凝るし、仰向けになると息苦しいし、激しいダンスの時は千切れるくらい痛くなることもあるし、男子の目が気になるし、ファンも顔より下ばかりに視線を向けるし、メンバーにすらからかわれるし。
 うらやましがるメンバーもいるけれど、あったらあったで邪魔だし、嫌な思いもする。
 こんなもの、いらないのに。……もう少し、ほどほどというか、そこそこでいいのに。
 胸に触れていた手を下へ下へと持っていき、ふう、と溜息をついて形ばかりのためらいの後、指先をするりとズボンの中に潜り込ませた。
 太ももの間に指先を忍び込ませると、柔草の奥に秘められた恥芯が、じんわりとした熱で湿っていた。
 下着越しの秘裂をなぞると、背筋を甘い感覚が這い上がってくる。
 こんなこと、するつもりじゃなかったのに……
 そう思いつつも、左手の指先を秘裂に食い込ませる。
 目を閉じて思い描くのは、彼の姿だった。
 乱暴に押し倒されて、乳房をもみくちゃにされながら、情欲の漲った男根を彩海の秘部に押し付け、膣壁を掻き分け、最奥に打ち付ける。彩海が泣いて許しを乞うてもお構いなし。欲望のままに、自分本位に、彩海を気遣うことなどなく、激しく腰を振り、膣道を肉棒が往復して、肉欲が体の奥に放たれる。
 やっと終わったと油断している彩海を嘲笑うかのように、一度果てたはずの彼の肉棒は衰えることなく、今度は俯せにされ、尻を持ち上げられて、獣の交尾のような姿勢で、再び彩海の奥を突く。彩海は悲鳴のような嬌声を上げるが、彼は止まるどころかさらに肉欲を燃え上がらせて、彩海のお腹の底を打ち据える。
 そうやって彼の性欲が果てるまで、何度も何度も凌辱される。そのうちに彩海の喉からは、拒絶の泣き声ではなく、甘い鳴き声が零れてくるのだ。もっともっとと彼を求め、情欲のままに、自ら腰を振るようになってしまう……
 彼に乱暴にされる……そんな淫ら妄想で、いつもするときよりも昂ぶっている。
 汗ばんだ太ももの奥が、下着越しでもはっきりと濡れてきているのが分かった。
 下着をずらして、直接、膣口に指先を沈める。
「……んぅっ、ふぁ、ぁん……」
 乱れた呼吸が、淫蕩に色づく。
 指先に絡む愛液を、塗り広げるように動かすと、粘り気混じりの水音が漏れる。
 お腹の奥が、たまらなく疼く。
 右手もズボンの中に入れて、固く尖ったクリトリスを押しつぶすように摘まむ。
 陰核を刺激するとびりびり流れる快感が、体の芯を貫いていく。
 クリトリスを2本の指で磨り潰すみたいに、強く擦る。
 目眩を起こすような強烈な快感が、彩海を襲う。
 体の奥底にある、肉欲をつかさどる部位に電流を流され、体が浮き上がるような感覚に、体を硬直させた。
 体から力が抜けてくると、入れ替わるように理性が帰ってくる。
 まだ少し、ぼんやりとした意識のままで瞼を押し上げると、見慣れた自分の部屋だった。
 当然ながら彼がいるはずもなく、彩海は小さくため息をついた。
 たぶんこれは、実るよりずっと以前の、花どころか芽も出していないような感情が、誰にも知られず枯れてしまったような、そんな出来事だ。それだけのことだ。
 それを失恋と呼んでいいのだろうか──





 僕が読んでいた本を、広瀬彩海が(無断で)読んでしまうという、悲劇的な図書館事件から半年近くが過ぎていた。
 年度も変わり、クラス替えがあって、僕と広瀬は別々のクラスになったことで、学校でも顔を合わせることはほとんどなくなっていた。
 ただ、どうしても廊下ですれ違ったり、下校時間が重なったり、不幸な偶然と言うものは避けられない。
 そういう時、僕がどう対処したかと言えば、実に単純なやり方だった。
 つまり、露骨に視線を逸らす、だ。
 「きもい」なんて言ってきた相手に対しては、相応の対処だったように思う。
 広瀬も俯いて離れて行ったり、誰かの陰に隠れるようにしたり、とにかくお互いに避け合っていた。
 それが、当然だったと思う。
 それなりに平穏な学生生活が戻ってきた。きていた。
 ではなぜ、半年も前に起こったことと、今現在に至るまでの僕と広瀬の状況を思い返していたかと言えば、これもまた単純な理由で、目の前に広瀬が立っていたからだった。
 僕は学年が変わっても図書委員になり、図書室のヌシという二つ名を恣にしていた。
 今日も今日とて、図書当番をしていたのだが、僕が知る限りにおいては半年ぶりに、広瀬は図書室を訪れた。
 さすがに面喰った。
 何をしに、という疑問はない。
 僕の目の前に差し出された本があるからだ。
 図書室本来の目的である、本を借りに来たという以外、考えようがない。
 分からないのは、なぜ僕がいる時に来たのだろうか、ということだ。
 僕は「図書室のヌシ」なんて二つ名が表わすとおり、だいたい図書室にいる。考えにくいが、それを忘れていたとしても、図書室に入れば僕の姿は確認できたはずで、カウンターの前に立つまで気づかなかった、なんてことはないはずだ。
 ならばなぜだろうか。
「これ、お願い……」
 つい、と広瀬が本を僕の方に寄せてきた。つんと、唇を尖らせて、こちらを睨んでいる。
 ぼんやりしてしまっていた。
 僕は出来る限り平静を装い、本のタイトルすら目に入れず、事務的に、手続きしていく。
「2週間以内に返してください」
 硬質な声が、自分の口からこぼれる。動揺を押し殺して、広瀬の方を見もせずに、本を差し出した。
 鉄仮面のごとき僕の無表情は、崩れていなかっただろうか。
 さあもう仕事は終わった、と読んでいた本を開く。
 視線を文字に落とすけれど、どうしても集中できなかった。
 動揺が収まらなかったからではない。
 動揺の原因が、いまだ目の前に立ち続けている。
 視線を向けずに広瀬を窺うが、受け取った本を抱きしめて、一歩も動いていない。
 こちらに視線が突きつけられているのが分かる。
 なんなんだ。
 正直に言えば、僕は苛立っていた。
 僕たちはあの時以来、不干渉条約を暗に結んでいたのではなかったのか。
 それで学校生活には支障があるなんてことは、なかったはずだ。
 それとも、そう思い込んでいたのは僕だけで、何か不便があったのだろうか。あるいは、半年も前に放ったあの言葉だけでは、まだ足りないとでも言うのだろうか。
 心の表面がざらざらしてくるのを感じつつも、無抵抗不服従を押し通す。
 と──
 すんすんと、妙な息遣いが聞こえてきた。
 本を抱く広瀬の手が、震えているのが、視界の端に映る。
 恐る恐る、顔を上げる。
 窓から差し込むオレンジの中で、広瀬は唇を引き締め、瞳を潤ませて立っていた。
 さすがの僕も、鉄面皮が割れる。
 顔が強張り、引きつり、いったいどんな表情をしているのか、自分でもうまくイメージできない。
 な、とか、あ、とか意味をなさない声が、吐き出す息とともに零れ落ちる。
「……ごめんなさい」
 と、広瀬が呟いた。
「え?」
 その意味が理解できず、さらに顔が強張る。
「あの時、きもいなんて言って、ごめんなさい!」
 本を抱きしめた広瀬が、腰を90度折り曲げる。ポニーテールの黒髪が振り回されて、シャンプーの甘い匂いが鼻をくすぐる。
 カウンターに顔をぶつけるんじゃないかという勢いだった。
 そしてようやく、広瀬が謝罪しているのだと、理解が追いついた。
 それも、半年も前のことを。
 今になって。
「……えっと、なんだよ、突然」いまさら、とは続けなかった。
 すでにお互い、片がついていることではなかったのか。
 広瀬はスンスンと鼻を鳴らして、
「今更遅いって思ってるだろうけど、私、あんなこと言うつもりなくって、驚いちゃって、それで、あんな心にもないことを……」目元を拭いながら言った。
 眉をハの字にして、背を丸めて、いつもより一回り小さく見えた。
 僕はなぜか、その姿に、表情に、胸が鳴るのを感じていた。
「あー……まあ、確かに今更だけど、なんていうか、謝らないよりはいいんじゃないか」
 なんて、まるで他人事のように応えた。実際、現実感がなくて、誰かの体験談でも聞いているかのような気分だ。
 広瀬は視線を落として、零れてくる涙を指で払う。
「許してもらえるはず、ないよね」
 いやいや。
 なんでこうも思いつめているんだろうか。
 気にするな、とまでは言えないけれど、もう過ぎたことだし、謝ってももらったし、それで済ませようじゃないか、と思うのだが。
 僕が口を開こうとするのを遮るように、
「私、許してもらえるんだったら、何でもする」広瀬が顔を上げ、絞り出すような声で言った。
「なんでもって……」
 簡単に言うけれど、大変なことだぞ。
「じゃあ、ここで服脱げって言ったら脱げるのか?」
 できるわけないだろう、という意味で言ったのだが、広瀬は少し怯んだような表情を見せて、しかし、
「……分かった」と呟いた。
「え……?」
 思わず漏れた僕の戸惑いの声には反応せず、広瀬は抱きしめていた本をカウンターに置いて、ブレザーのボタンを外した。
 何が起こっているんだ?
 いや、起こっていることは分かっている。
 なぜ、こんなことになったんだ?
 脱いだブレザーの上着を、カウンターの上に置き、フックで止めるようになっているネクタイを重ねた。
 ワイシャツを大きく押し上げる膨らみに、思わず視線が吸い寄せられる。
 この下にあるものを、見られるのか?
 いや、見ていいのか?
 茫然としている僕を置き去りに、広瀬は腰のあたりをまさぐって、スカートを落とした。下着はワイシャツの裾で隠されてはいるが、それがかえって扇情的で、いやらしさを強調している。白くて肉感的な太ももが視線を誘う。
 もう、何がなんだか、わけがわからない。
 僕のあの一言が、こんな状況を作ってしまったのか?
 広瀬がワイシャツのボタンを外しはじめたところでようやく、僕は我に返った。
「ま、待て! そこまでしなくていい、僕が悪かった! 言い過ぎた。許すから、その、変なこと言った僕の方こそ悪かったっ」
 カウンターに頭をぶつける勢いで、頭を下げる。
 ほんの数秒。
 しかし、恐ろしく長い数秒の沈黙の後、広瀬が大きく息を吐き出した。
「止めてくれなかったら、どうしようって思ってた……」
 ごそごそと衣擦れの音。
 それが収まると、
「もういいよ」と、広瀬の声。気のせいか、少し柔らかい声色。
 顔を上げると、ブレザー姿の広瀬が、どこか困ったように微笑していた。
 僕は大きく息を吐き出して、呼吸を整える。
「なんでこんなこと……」
 呻くように呟く。
「どうしても、許してもらわなくちゃいけなくて……」
 許してもらいたくて、ではなくて、許してもらわなくちゃいけない、という言葉が引っ掛かった。
 僕が首を傾げると、疑問を察した様子で、広瀬が口を開く。
「あの時のことをちゃんと決着つけないと、先に進めないって思って」
 先に?
 なんだかもったいぶるな。
 だんだんと落ち着いてきた僕は、表情筋が定位置に戻っていくのが分かる。
 要するに無表情。
 そんな顔を向けられている相手が、僕とは逆に落ち着かなくなるということは、自覚している。自覚してはいるけれど、素なのだからどうしようもない。
 広瀬ももちろん例外ではなく、せっかく緩んだ表情が、また緊張で固くなっていくのが見える。
「あの、だから……私と、付き合ってほしいって、思ってます……」
 途切れ途切れの言葉。
 言葉の意味は理解できても、飲み込めない僕の感情の部分が混乱している。
 頭の中がとっ散らかっている。
 それでも意味は伝わった。
 なんで、と聞くのはNGなんだろうな、と僕の中の冷静な部分が判断した。
 広瀬が僕の様子を窺うように、上目づかいを向けてくるが、誰よりも僕自身が答えを知りたい。
 なんて答えればいいのか。
 なにせ、心の奥底で発芽すらしないままに埋め立てられてしまった感情を、掘り起こさないといけないわけだから、そう簡単に答えが出るわけがない。
 けれど。
 そのはずだったのに。
「分かった。僕も広瀬のこと好きだし、付き合おう」
 割とすんなりと、そんな言葉が出てきた。
「す……好き? って、え……?」広瀬が目を見開いた。「ほんとに? ほんとにいいの?」
「いいよ」
「だって私、かわいくないし……太ってるし、胸はまあ、ある方だけど、だらしないし、本棚も整理できないし、本の趣味だって違うし……それでも、いいの?」
「広瀬は、誤字脱字だらけで、伏線投げっぱなしで、日本語の使い方もおかしい、読んでいて苦痛なほど、めちゃくちゃつまらないって本を人に薦めるのか? 付き合ってほしいなんて言うんだったら、自分のことを卑下するもんじゃあないよ」
 どこかで聞いたことのある科白を、なんだかもっともらしいことを、偉ぶって言ってしまった。
 広瀬は戸惑ったように、困ったように、目を泳がせた。
「……ごめん。でも、本当にいいの?」
「いいよ。広瀬が自分のことなんて思っていようと、僕が広瀬のこと好きなら、それで問題ないだろう」
 僕の答えを聞いた広瀬は、夕焼けの橙の中でもはっきりと分かるほど真っ赤になっていた。
 かわいいな。
 沈黙を避けるように、僕は、
「広瀬こそ、なんで?」なぜ、僕を選んだのか。
 僕が問うと広瀬は、はにかんで目を伏せ、前髪に触れながら答えた。
「最初は、本を読んでる顔が、いいなあって……」でも、と続ける。「私があんなこと言っちゃって、それから、あからさまに避けられて……それが、つらくって。そう、つらかったの。どうでもいいことじゃなくて、仕方ないことでもなくて、とってもつらかった。ずっとつらくて、それで、私、君と、一緒にいる時間が好きだったんだなあって、思って……君のこと、好き、なんだって分かって……」
 ちらちらと上目づかいでこちらを窺いながら告白する姿は、こちらまで照れくさくなってしまう。
「キミは?」
「ん?」
「私のこと、好きって、どこなのかなって」
 僕はしばし逡巡し、
「さっき、何でもするって言ったよね?」
「え? まあ、言ったけど……」
「でも、脱ぐのは途中でやめたよな?」
「……そうだけど」
「じゃあ、僕が広瀬のことを好きになった理由を聞かないってことにしておこうか」
「えっ!? なにそれ……」
「言いたくなったら言うよ」
 広瀬はあからさまに不満そうな顔をしたけれど、
「……分かった」と、首肯し、不敵に笑う。「言いたくなる日を楽しみにしてる」
 まあ、そうしておいてほしい。
 もったいぶる気もないし、たいそうな理由があるわけでもない。
 要するに照れくさいのだ。

──本を読んでる顔が、いいなあって……

 僕も同じ理由だなんて。
 なんだか照れくさくて言えなかった。

「けど、服を脱ぎ始めた時には、びっくりした。誰か来たらどうするつもりだった?」
「ああ、大丈夫」広瀬はこともなげに答える。「鍵閉めてあるから」
 ……用意周到なことで。




[10] さくら

投稿者: フォフ 投稿日:2016年12月24日(土)23時02分1秒   通報   返信・引用

 車窓を流れる景気は緑が多くなり、住み慣れた都会から離れていくことを教えてくれる。都会で見る緑よりも、深くて濃い。
 ハンドルからは、心地よい振動が伝わってくる。
 そして、助手席には。
 一人の少女がうつらうつらと、落ちてくる目蓋を押し上げようとしている。朝早く出発したせいで、車の振動が心地よい眠りに誘うのだろう。
 眠っていてもいい、と言ったのだが、大丈夫です起きてます、なんて微笑んでいた。
 彼女の首が落ちそうになるたび、肩口で黒髪が揺れる。普段は出している綺麗なおでこだが、今日は前髪を流すようにして隠している。おでこを出していると利発そうな印象だが、今は若いというか、幼いという印象になる。
 ひょっとしたら、それが年相応なのかもしれないけれど、大きな瞳の輝きは、大人びた色合いを映している。
 こくん、と首が折れそうになり、慌てて彼女が顔を上げた。
「ごめんなさいっ。ちょっと……寝てたかも」
 目をこすりながら、彼女がこちらを見る。
 それを横目で見ながら、
「寝てていいよ。そう言っただろ」微笑ましくて、頬が緩むのが判る。
「でも、せっかくの旅行なのに……せっかく一緒にいられるのに、もったいないじゃないですか」
 彼女、小田さくらはそう言って、少し恥ずかしそうに顔を俯かせた。
 最近は彼女の仕事が忙しくて、電話で声を聴くだけ日々が続いていた。寂しい思いしていたらしい彼女は、今日の旅行は余計に楽しみだったのだろう。
 たった一泊二日の温泉旅行だが、思い切って計画して良かった。話を切り出した時の、恥ずかしそうに、けれど嬉しそうに、頷いた彼女を思い出す。
 出来るだけ平静であろうとして、しかし頬が緩むのを堪えきれず、変な表情になっていくのを自覚して、結局俯いた。
 とても愛らしく、とても可愛らしい。
 赤信号でスピードを落とす。
 いつも以上にゆったりと、安全運転で停止線に止まる。
 すると、不意に膝が温かくなる。
 思わず目をやると、小さな手が乗っていた。
 小柄なさくらが手を伸ばして、僕の膝に手を置いている。体を傾け顔を近づけて、そっと目蓋を下した。
「運転中だよ」
 窘めるけれど、さくらは諦めず、ん、と唇を強調して見せる。
 信号は変わったばかりだし、まだ大丈夫だろう。念のためニュートラルにして。
 花に誘われる蜂のように、愛らしい唇に、自分の唇を重ねた。
 ん、と小さく息を漏らす、さくら。
 唇を離すと、頬を赤くしたさくらが、微笑んでいる。
 可愛らしい少女のようで、同時に、艶っぽい淑女のようで。
 不思議な視線に、魅力に、僕は惑わされている。



 妹のクラスメイトだったさくらが、よく我が家に遊びに来ていたのがきっかけだった。
 僕とは違い社交性の高い妹は、よく友達を家に誘っており、さくらもその中の一人だった。小学校のころから遊びに来ていたというが、その頃のことは憶えていない、というくらい、印象の薄い子。
 時折、廊下ですれ違うたび、こちらを見上げて挨拶して、笑顔を浮かべる。こちらも礼儀として挨拶は返す程度。
 そんな知己とも言えない関係に変化が生じたのは、妹に貸していた漫画を読んださくらが、それを気に入ったのがきっかけだ。
 あの漫画を気に入ったらしいから、他にも面白そうなやつ貸して。
 さくらが帰った後、夕飯の席で妹にそう言われて、面倒くさいと言いつつも、漫画好きとしては内心、張り切っていた。その日のうちにいくつかピックアップし、読ませる順番まで考えていたら、夕食後すぐ始めた作業だったが、気づいたら時計の針は頂点を超えていた。そりゃあ、本棚から出すたびについ読んでしまっていては、そうもなる。
 まずは様子見にと貸した作品にもまんまとはまり、次々に読ませた作品のそのことごとくを気に入ったらしいさくらは、妹を経由するのがもどかしくなって、ついには直接僕の部屋に入ってきて漫画を読むようになった。
 話を聞くと、彼女の家には両親の方針でDVDプレイヤーがないらしく、漫画だけではなくそれを原作にしたアニメのDVDをうちで見たり、映画を見て行ったり、漫画を読んで、笑ったり泣いたり。ころころと愛らしく表情が変わる。
 あんなに存在感がなかったのが嘘のようで、いつの間にか僕の視界、思考の中心に、さくらはいた。
 事前に連絡するのは妹ではなく僕のスマホの方で、うちに来たら妹の部屋を素通りして、僕の部屋に入ってくるようになってからは、関係が進むのはあっという間だったように思う。
 妹からは、まさかさくらと付き合うとはねえ、なんて言われたが、「付き合ってない。ただマンガ読んでるだけだ」と答えていた。実際そうなのだから正直に答えたまでだが、その頃には、さくらを意識するようになっていたのは、間違いない。
 最初は一人分くらい開いていたはずの、僕とさくらに挟まれた空間は、ある時から距離を失い、彼女は当たり前のように寄り添ってきた。
 さくらから伝わってくる少女の温度に、彼女をちらりと見ると、鼓動が高鳴るのを抑えられなかった。
 小柄な少女が、きらきらと深くから光る大きな瞳をぱちくりさせながら、こちらを見上げてくるのだ。
 落ちない男はいないだろう。
 さくらの妖しい瞳に見つめられると、とても落ち着かない気持ちになるのは、自覚していた。
 気が付いたら、唇を奪っていた。
 さくらは、驚いた様子も一瞬で、抵抗はせず、そっと目蓋を下して受け入れてくれた。

「あの、これって……そういうこと、で、良いんですよね?」
 大きな瞳をぱちくりとさせながら、上目使いで聞くさくらに、
「あー、うん……カノジョに、なって欲しい」と、順序を間違った告白をする。
 ぽってりした唇を綻ばせたさくらは、はい、と小さく頷いてくれた。
「意外でした」
「何が?」
「思ってたより、意外と、強引な人なんだなって」
 ふふ、と息を漏らして笑うさくらの、年齢不相応に妖艶な表情を、僕は今でもはっきりと覚えている。

 出会いから時が経ち、さくらには他の同い年の女の子とは少し違う道を歩いているが、僕たちの関係は変わらなかった。
 いや、むしろ深まったと言えるかもしれない。





 ポーズをとるさくらに向けて、デジカメのシャッターを切る。
 さくらが立っているのは、なんてことない、どこにでもあるバスターミナルの自動販売機の前だ。
 車で来たのに、わざわざバスターミナルまで来たのはわけがある。
「どんな感じですか?」さくらが画面を覗くので、見せてやると、「やっぱり、ちょっと違うんですね」
 首を傾げる。その拍子に流れる髪を、片手で押さえた。
「アニメだと柱の位置が違うんだな」
 顔を上げると、2台ある自動販売機の手前に柱が立っており、いつだったか画面で見た景色とは違う。アニメではもっと、向かって左側だった。
 僕らがやっているのは、単なる撮影と言うわけではなく、アニメやマンガ作品の舞台となった場所を訪れるという、いわゆる『聖地巡礼』というやつだ。
 温泉を舞台にしたり、作品内で温泉に訪れるアニメは結構ある。
 温泉旅行がメインなのか、聖地巡礼がメインなのか。
 まあ、そのどちらも楽しんでいるのは、間違いない。
「じゃあ次はいよいよ、宿ですね」
 きゅっとかわいらしく拳を握り、さくらが微笑む。
 バスターミナル内にあるレストランで昼食は済ませたので、後は車に乗って移動するだけだ。
「民宿でしたっけ?」
「いや、実際は普通の温泉宿らしいよ」
 作品内では、登場人物の親戚がやっている民宿という設定だった。
 そうなんですね、と、さくら。
 自然と寄り添ってきて、軽く手の甲が触れ合う。
 ちょっと熱いくらいの、さくらの手。
 偶然ではない。手をつないでほしい、という合図だ。
 自分からキスをせがむくせに、妙なところで照れるところがある。
 さくらの小さな手を包むようにすると、手のひらが合わさり、自然と指が絡まる。
 手のひらから、密着した指から、伝わってくるさくらのぬくもり。
 ちらりとさくらを窺うと、よくできました、とばかりに微笑んでいた。





「わあ」
 通された部屋を見て、さくらが感嘆の息を漏らした。拝むように合わせた両手を、口元にあてる仕草が愛らしい。
 10畳はある和室と、襖を開けると布団の敷かれた寝室。窓の外には縁側と庭園があり、庭園を見ながら入れる露天風呂が見える。
 インターネットで画像を確認はしたが、実際に見ると印象が全く違う。もちろんいい意味で。
 これで名探偵でも宿泊していたら、間違いなく殺人事件が発生するな、という感想は飲み込んでおいた。
 パタパタと足音を立てて部屋を走り回る、さくら。ひらひらとスカートの裾が踊り、そこから伸びた太ももの肉付きに目を奪われながら、今の姿だけを見るとただの子供なのに、なんて考えても、我ながら説得力がない。
「綺麗なお庭……でも、外の景色見えないんですね」
 少し残念そうな響きの、さくらの声。
「外から見えないようになってるんだよ」
 庭園には高い塀が作られており、外は見えないようになっている。
 外が見えないということは。
 言いつつ、窓際に立つさくらに近寄る。
 さくらが言葉の意味に気付いて振り向いた。
 大きな瞳が、僕を捉える。
 さくらに見詰められながら、腰に手をまわして抱き寄せる。
 ほんの一瞬だけ驚いたさくらだったが、丸くした目を細めて、微笑んだ。
 熱を帯びて潤んだ瞳が、僕をのぞき込み、そっと閉じられる。
 車の中でもしたけれど。
 引き寄せられるように唇を重ねる。
 やや厚みのある唇は、柔らかくて、ふわふわで、僕の体温で溶けてしまいそうだった。
 少し強く吸いつくと、それに合わせて唇が開かれる。感触が違う、口の内側の粘膜を感じ、舌を忍び込ませる。
 んんっ、絡み合う唇の隙間から漏れた息には、驚きで揺れている。
 僕は構わずに舌先で口腔を撫でまわす。
 ほとんど戸惑う様子もなく、すぐに僕に合わせて舌を絡めてくる。ぬるぬると唾液がぬめり、いやらしい音が鳴る。
 舌の表面のざらつき、舌の裏側や歯茎の独特の感触、不思議と甘い香りのするさくらの口腔。たっぷりと堪能しながら、腰に回した手を、するりと滑らせて、お尻に這わせる。ぴくりと反応し、官能的なしぐさで腰をくねらせる。
 若い肌の柔らかさ、筋肉の作る弾力が、布越しにも心地よい感触を与えてくれる。
「んっ……ふぅっ、ぅうんっ」
 口に放り込まれる吐息が、熱を帯びてくるのがわかる。熱い呼気が、僕の興奮に伝染し、体温を上げていく。
 尻の割れ目を指でなぞり、女の深奥に侵入させていく。
 下着越しの熱い感触。熱くて、柔らかい。
 秘裂に沿って指を前後させると、たまらない様子で、官能的に腰を動かす。まるで僕の指の動きに合わせているみたいで、いやらしい。
 体が反応しつつも、僕の唇に吸い付き、舌を絡める。
 じっとりと湿ったそこは、すでに準備が整っているように思える。
 このまま、続けてしまおうか。
 部屋について早々、こんなことしているなんて、我ながら辛抱が足りないというか、肉欲に忠実すぎる。
 理性が欲望にブレーキをかけて、僕は唇を離し、さくらを見下ろす。別れがたさを主張するように、唾液の糸が二人の舌の先から伸びて、途切れる。指先は下の唇に触れたままだ。
「せっかく温泉に来たんだし、先にお風呂入ろうか?」
 僕が言うと、さくらは一瞬呆けたような顔をして、それから唇を尖らせた。
 さくらの手が、興奮の滾る股間に添えられ、オスの高ぶりを刺激する感触が、背筋を駆け上がる。
 自分でスイッチを入れておいて何言ってるんだこの人は、そんな目で僕を責める。性欲を後押しするように、理性を溶かす快感が、さくらの手によってもたらされる。
「がまん、できないです……」
「お風呂でする?」
「……がまん、できないんですっ」
 からかう僕に柳眉を逆立て、さくらは僕のベルトを外しにかかる。すっかり慣れてしまった手つきで、あっという間にファスナーを下ろし、下着からペニスを露出させた。
 欲望が充ち満ちた男根が、さくらの目にさらされる。
 ふう、と吐息もをぼしたをついたさくらは、その場にひざまずいて、裏筋に顔を押し付けるような勢いでキスをする。
 先ほどまで僕と絡まっていた舌が、今度は肉棒に這わされる。媚熱で熱いくらいのさくらの舌が、肉棒の根元からカリの手前まで、何度も何度も舐め上げる。
 敏感な亀頭には、さくらの熱く湿った吐息で刺激され、もどかしい。僕の前でひざまずいて見上げるさくらの目を見ると、わざと焦らしているように見える。いや、わざとに違いない。途中でやめると言ったことに対する仕返しだ。
 事故なのか故意なのか、舌先が亀頭をかすめた。
 ん、と思わず息を漏らしてしまう。
 それを聞き逃さなかったさくらは、艶然と微笑み、亀頭のくびれを舌先で弾くように、丹念に舐める。
 柔らかい唇を開いて亀頭を飲み込んでいく。
 目が離せない。
 肉棒がさくらの熱に包まれ、震えてしまう。
 さくらの頭が前後する。口腔の粘膜が張り付き、唾液でぬめり、快感が高まる。
 唇に出し入れされる肉棒は、やがて唾液にまみれ、さくらの口技は滑らかさを増す。
 蕩けるような肉欲は、肉棒から背中を這い上がってきて、頂点を目指そうとするが、さくらの頬を手で撫でて、
「もういいよ」と僕はそれを止める。
 不思議そうな、どこか不満そうな眼をしたさくらは、それでも咥えたままのペニスから離れようとしなかったが、
「我慢できないんだろ?」
 指先で耳をなぞるようにしてやると、びくりと震えてゆっくりとペニスを解放した。
 さくらの手を取って立ち上がらせる。押し倒されるとでも思ったんだろう、さくらは不思議そうに首を傾げた。
 僕はさくらを振り返らせて、戸惑ってこちらに顔を向けるのにも構わず、背中を押して壁際まで連れていく。
 スカートをまくり上げ、下着をずらして、湿り気を帯びた秘裂に亀頭を押し当て、さくらに塗りたくられた唾液を潤滑液に、膣内へと沈み込む肉棒。
「いきなりっ、や、待っ……あぁんっ」
 ゆっくりとじっくりと、彼女の内側の感触を味わうように、肉襞を押し広げながら、奥へ奥へと踏み入っていく。
 自分のものではないものが、自分の中に入ってくるという感覚を、耐えるというよりは、堪能しているふうの、さくらの横顔。
「んんっ、ぁ、なんか、これやばい、かも……ぁあっ」
 この体勢がなのか、少しずつ深みに入られることがなのか、壁に手をつきながら、さくらは背筋を震えさせる。
 たまらない様子で目蓋を下し、まるで結合部から這い上がってくる感覚に酔いしれているようだ。
 たっぷりと肉壁の感触を味わいながら、肉棒の先端が奥壁まで到達する。
 ぴったりと、僕とさくらが合わさるのを感じる。
 僕の形に合わせて誂えたような、さくらの形。
 この一体感が、何度体験しても目がくらみそうな快感で、僕を虜にする。
 熱いため息をついたさくらが、肩ごしに僕を見つめた。薄く開いた目蓋の下から、淫靡に揺れる瞳が、僕を見つめる。
 ぞくぞくと、欲望が燃え上がる。火をつけられる。
 更なる快感を求めて腰を動かす。
 入れた時とは違い、激しく腰を前後させて、さくらの奥を突いた。
「ああぁッ、あんっ、あァァんっ!」
 突然の攻撃に戸惑う暇もなく、嬌声を上げるさくら。
 腰を動かしているうちに、だんだんと動きが滑らかになってくる。さくらの奥から溢れてくる愛液が、僕の動きをたすけて、より激しい動きになる。つま先立ちになるさくら。
「あッ、やぁっ、ああァんッ、はげしっ、ぅぁっ、すぎぃっ、あァんッ!」
 壁に押し付けられた格好で、自分の内側を蹂躙され、火照った息を上げるさくら。
 快感に揺らぎ、淫欲に濡れた声が、1オクターブ上がったように聞こえる。
 きゅんきゅんと、肉壁がきつくなり、さくらの高まりを伝えてくる。
 まるで肉体が、一緒に達したいと訴えているようだった。
「いきそう?」
 僕が聞くと、息も絶え絶えといったさくらが、何度も頷き、
「いく、ぅうんっ、いき、ますっ、あぁああァアッ!」
 ひときわ高い声を上げるさくらに締め付けられて、僕も限界がやってきた。
 根元から爆発したような快感を、肉欲の結晶を、白濁液となって解き放ち、さくらの奥に注ぎ込む。
 体の奥に、さくら自身に、染み込ませるように、たっぷりと注ぎ込んだ。
 膣奥に打ち付けられる精液に、痙攣するさくら。何度も弾ける精液を、震えながら受け止めている。
 快感の塊をさくらの中に吐き出して、情欲の波が引いていく。理性が回復してきて、さくらの方を見れば、薄く開いた目蓋の隙間から、こちらに向けられている瞳があった。
 かすかに微笑む形の唇からは、荒い息が吐き出されていた。
 壁に押し付ける格好だったさくらを抱き寄せて、頬に口づける。
「んっ」
 火照った頬から熱を吸うように口づけると、さくらはくすぐったそうな表情で、微笑む。
「……ほん、っとに、強引なんだから……」
 荒い息を吐きながら、口元を少しだけ緩めて、僕を見て目蓋を下した。
 唇を重ねると、淫らな熱が伝わってくる。
 情欲の微熱がくすぶっているけれど、ひとまずは落ち着いた肉棒を、さくらの中から引き抜く。
「お風呂入ろうか」
 僕が言うとなぜかさくらは吹き出し、ひとしきり笑った後、
「そうですね。せっかく温泉に来たんですし」と頷いた。

 手入れの行き届いた中庭は、しかしその壁のおかげで精巧に細工された箱庭のような趣がある。中央にある池には「温泉ではありません」という立札。きっと何人か間違えて入った結果の対処なのだろう。台無しとまではいかないが、妙に目立っている。
 しかし、塀の上に目を向ければ、雄大な山々の峰がのぞいていた。
 室内からは見られなかったが、思ったよりもはるかに絶景だ。
 こんな風景を見ながら湯につかるというのも、良いものだ。なかなか体験できることではない。
 ガラガラと戸の開く音がしたので見てみると、タオルで体を隠したさくらが入ってきた。
 布一枚では隠し切れない胸のふくらみに、思わず視線が吸い寄せられる。隠れているのに、かえって強調しているようにも見え、裸よりいやらしいかもしれない。雄大な景色もかすんでしまう。
 その視線に気づきながら、さくらはたいして気にした様子もなく、タオルを置いて姿態を見せつける。
 小柄な体に反して豊満に実った乳房、肉感的でありながら絶妙にくびれている腰回りは、実にいやらしくて、視線が釘づけになる。形の整えられた股間を隠す陰り、柔らかそうなお尻の丸み、張りのある太もも、小さくてかわいい足指。
 体を舐めるように、視線を下し、それから視線を上げて顔を見ると、こちらを見てくすくす微笑んでいるさくらと目が合う。
 朱の差した頬は、恥ずかしさに染まっているようでいて、見られて恍惚としているようでもあり、見ていていいものなのか、視線を外した方がいいのか、戸惑う。何度も見ているはずなのに、いつもと違って見える。温泉のせいだろうか。
 戸惑う僕がおかしかったのか、くすりと笑ったさくらは、こちらに背を見せて体を洗う。
 体に湯をかける後ろ姿、濡れた肌を見ていると、風呂の温度とは違う、抜け出ていったはずの熱が、体の中に戻ってくるのを感じる。
 そう分かっていても、さくらに向ける視線を外すことはできなかった。

 湯船につかり、僕の隣に位置を取るさくら。
 深く、熱っぽいため息をついたさくらは、当たり前のように寄り添い、肌を合わせてきた。
 たったそれだけで、風呂の温度とは違う熱が、体の内側に灯る。
「けっこう景色良いんですね。もっと囲まれて外が見れないかと思った」
 さくらがうっとりと息を吐きながら、呟く。
「いい天気で良かったね。お風呂に入りながら風を受けるっていうのも気持ちいいし」
 外に向けた僕の視線を追い、さくらも晴天を眺め、尖らせていた唇を解いた。
「そうですね。ほんと、気持ちいい」んー、と湯船の中で手足を伸ばす。「こういうのもいいですね、のんびりできるし」
「いつもは部屋でDVD見るか、マンガ読むか、だからね」
 それもそれで、のんびりと言う気もするが。
 さくらの職業が職業なので、外で遊ぶことが少ない。
 メイクを変えればまったく気づかれないと言うが、喋ると声でばれることもあるという。確かに特徴的な声だ。可愛らしくて、聞き心地が良い。
 さくらは視線を外に向けたまま、僕の肩に頭を預ける。
「おにいさんって、ほんと、意外性の人ですね」
「そうかな」
 もともと、さくらにとって僕は『友人の兄』なので、おにいさんと呼ばれる。最初からそうだったので、もう慣れたけれど。
「そうですよ。付き合うときだってそうだったし、今日のことだって、いきなりだったし」
「いきなりって言っても、もう1か月前だろ」
「何日前とかそういうことじゃなくて、その場の空気とか、話の流れとかタイミングとか、あったじゃないですか」
 そうだっけ。そうだろうか。
「喜んでくれてると思ったけど」
「喜んでますよ!」嬉しい、と呟く。付き合っているうちに判ったけれど、さくらは、マンガで言うところの書き文字みたいなイメージで呟くことがある。
「それなら良かった」
 僕が笑うと、それに応えてさくらも笑顔を返してくれる。
 湯の中でさくらの手が動くのを感じ、手を握ろうとしているのかと思ったが、僕の手をすり抜け、太ももの上を撫でる。
 どきりとしつつ、こういうのは、男の所作ではないだろうか、などと思う。
「さっき、途中……でしたよね」
「途中?」最後までしたと思うけど。
「おくちのほう……」
 太ももを撫でていた手が、するりと内腿に降りてくる。際どいところで止まる。
 見上げるさくらの瞳が、妖しく揺れる。

 風呂の縁に座らされて、股の間に小さな体を押し込んでくるさくら。
 ついさきほど一仕事終えたばかりだというのに、欲情が充溢している肉棒。
 湯船につかっているせいか、体温が上がった熱いくらいのさくらの舌が、亀頭に触れる。
 唾液をたっぷりと塗り付けられて、びくりと震える。
 敏感な粘膜が舌の表面に撫でられ、快感が脊椎を駆け上がってくる。先ほどイったばかりということもあって、より敏感になっているのに、おかまいなしだ。
 いや、分かったうえでやっているのかもしれない。
 さくらなら有りうる。
 ぽってりとした唇が、亀頭を飲み込み、肉茎へと下りてくる。
 零れそうになる吐息を飲み込み、快感に耐える。
 ゆっくりと味わうように、唇が上下し、舌が肉棒にこすりつけられる。唾液の潤滑液が滑らかに唇を滑らせ、僕の肉欲の中枢を刺激する。
 さくらの唇が肉棒の根元にまで下りてきて、亀頭は喉奥の粘膜に、柔らかく包まれる。極上の感触に耐え、眉を寄せる。
 さくらの指先が、陰嚢を弄ぶ。小さな爪がついた細い指が、繊細に動く。
 息継ぎのように唇を上までもっていくと、今度は亀頭を転がすように、ぐるぐると舌をまわした。
 さくらの頭が上下に動くたび、湯船のへりに打ち付けられたお湯が、ちゃぱちゃぱと音を立てて、唇から洩れる水音に混ざる。
 ヤバイ。
 さくらがこちらを見上げている。
 限界が近いことが、悟られている。
 僕を見つめる瞳に、妖しい光がちらついたかと思うと、強く吸い上げられた。
 さくらに導かれるまま、逆らえず、肉欲が決壊した。
「出るっ」
 言うが早いか、さくらの舌が亀頭付近でうねるのが分かる。いいよ、というよりは、早くちょうだい、と言っているように、舌がうねる。
 見つめ合ったまま、肉欲が弾けた。
 解放され、飛び出してくる精液が、さくらの口の中へ溢れていく。
 先ほど出したとは思えない勢いで、さくらの口腔を満たしていく。
 びくびくと跳ねて、口中で暴れる肉棒は、さくらの柔らかい粘膜に擦りつけられて、射精しながらも快感に襲われる。
 射精が収まると、先ほどまで頭蓋骨の中を満たしていた肉欲が、波が引くように去っていく。
 さくらは、肉筒の奥に残っている精液を吸い出し、喉をこくりと鳴らし、精液を飲み下した。
 唇を指でなぞりながら微笑む姿は、淫蕩と呼ぶ以外には言葉が見つからない。
 年齢不相応の妖しさ。
 ちゅ、と愛しげに亀頭に口づけ、立ち上がるさくら。
 張りのある肌を、水滴が滑り落ちていく。
 ただでさえいやらしい造形のさくらの姿態が、さらに淫らに彩られる。
 さくらの腕が僕の首に絡みつき、抱きしめられる。豊かに張り出した乳房が胸板に押し付けられた。肉棒が二人の間で押しつぶされている。
 耳元でさくらの吐息が聞こえる。少し荒いのが分かる。
 僕はさくらに応えるように、腰に腕をまわして抱き寄せた。
 吐息が、乱れてひとつ。
「どうした?」
「気持ちよくなってくれたらなって、それでいいかなって思ったんですけど……」首に回された腕に力が込められて、より体が密着する。柔らかい塊が僕の胸に押し潰される。「なんか、ぜんぜん、おさまんなくて……」
 さくらが体重をかけてくるので、それに任せて仰向けになる。
「キス、してもいいですか?」
「なんでそんなこと聞くの?」
「だって……」口でしちゃったし。
 いいよ、と言う代わりに、さくらの後頭部に手をまわして顔を寄せ、唇を重ねる。
 ちゅ、ちゅ、と軽めのキスを交わす。舌を絡めようとすると、するりと逃げるように体を起こして、僕に跨る格好になる。
 見上げるさくらの表情は、まるで酔っているようにとろんと蕩けており、いつにも増して艶っぽい。
 さくらは熱を取り戻した陰茎に手を添えて、秘裂に先端を当てがった。
 粘膜同士が触れ合うと、ためらうことなく飲み込んでいく。
「んんっ……ん、ぁあっ! ふあぁぁっ」
 湯ではないであろう液体で、十二分に濡れた膣壁は滑らかに、肉棒を最奥へと招き入れる。
 小柄なさくらの体では、腹の奥を押し上げる肉棒は、ほとんど暴力的で、見上げれば快楽と苦痛で泣きそうな顔に歪んでいた。
 ただでさえ気持ちのいいさくらの内側が、体重を支えるように、僕のペニスにつかまるみたいに締め付けられ、眩暈を起こしそうな快感に襲われた。
 ゆるゆると、恐る恐ると言った様子で腰を動かし始めるさくら。
 胸が苦しくなるような快感。
「あっ、あアっ、ん、ぅふぁっ」
 リスミカルに揺れる腰が、踊っているようにも見える。
 柔肉が全方位から肉棒に絡みつき、快感に襲われる。
 さくらの中を深々と抉り、愛液が滴る。体がお湯で濡れているのか、さくらの愛液で濡れているのか、分からないほど、奥の方から溢れてくる。
「あぅっ! ぅ、ふぅっ、ふぁぁあっ! ああンっ!」
 膣奥から溢れてくる蜜が、さくらが腰を振るたびにくちゅくちゅと淫らな水音を立てる。
 さくらが激しく動くたび、それに合わせて、たわわに実った乳房が弾んだ。
 手を伸ばして乳房をつかむと、さくらの体がびくりと震えた。
 快感に耐えているような表情だったが、唇は綻んでいる。
 上等な絹のように滑らかで、高級なマシュマロのような心地よい弾力があり、指が埋まってしまいそうにやわらかい。
 果実のように実った乳房に指を食い込ませると、リズミカルだった腰のうねりが乱れ、先ほどまでとは違う刺激が、僕を襲う。
 目が眩むようだ。
「あぁんっ、ああぁっ、ん、ああアッ!」
 喘ぐさくらの声が、切なさを増す。
 前後左右だった動きが、上下に変化し、膣奥に亀頭が叩きつけられる。
 絡みつく柔肉が、圧力を高めた。
 そろそろ、だろうか。
 そう思い、下から腰を突き上げる。
 不意打ちの快感に、ひ、と息をのむさくら。
 腰を突き上げるのに合わせて腰をくねらせようとするが、それも数回で限界だったようで、すぐにされるがままになる。
「ハ、ア、はぅ、待っ、んんッ、うッ」
 嬌声も絶え絶えで、今にも途切れてしまいそうだ。
 湯なのか汗なのか、さくらの乳房をつかむ手がぬるりと滑る。手が外れそうになるが、それを察したのか、無意識か、さくらの上半身が倒れこんできて、より強く押し付けられた。
 食い込んだ指の隙間からこぼれそうになるほどに、柔らかい感触。
 手のひらですくうように持ち上げて、指先をうずめて形を変えて弄ぶ。固く尖った乳首が、手のひらで潰されている。
 さくらは僕の胸板に手をついて、切なげに眉根を寄せている。
 こちらを見るさくらの瞳が、熱く揺れた。
「あぁっ、や、あぁんッ、イっちゃ、んッ、イっちゃうぅっ!」
 さくらの体が固くこわばり、びくり、びくり、と何回も震える。
 絶頂を迎えたさくらの膣壁が細かく、強く蠕動し、射精を促す。
「あ、いく……」
 さくらの律動に誘われるがままに、精を解放する。
 隙間なく合わさっていたさくらの中に、精液を流し込む。
 射精と共に体を震わせる快感に身を委ねていると、腰が抜けたように、体を支えていられなくなったさくらが倒れこんできた。びくっと痙攣するさくらの体が、僕の体までも震えさせる。
 射精後の冷静さよりも、さくらの媚熱が先にやってきたので、快感がゆっくりと溶けていく。どちらのものか分からない、ふうふうと、荒い息を吐き出すたびに、さくらの乳房が僕の胸に押し付けられた。
 心地よい。
 痙攣して震えるさくらの、髪に指を通すようにして頭を撫でる。湯気なのか汗なのか、湿った熱が指に絡む。
 髪を撫でるたび、乱れた息の中に、甘い響きが混ざった。
 甘い響きと一緒にやがて、くすくすと笑う息が漏れてきた。
「どうした?」
「せっかく温泉に来たのに、いつもとやってること変わりませんね」
 若さに任せて、会うたびに求めたし、求められもした。
「さくらがかわいいからしかたない」
「んー、なんかとってつけたような」唇を尖らす、さくら。
「本心だよ」失敬な。
 さくらは、ふふ、と笑い、僕の胸に、鼓動を聞くように頭を預けて、
「嬉しい」と呟いた。
 ぴったりの合わさる肌と肌。
 繋がったままの僕とさくら。
 肌を通して伝わる鼓動が、柔らかく優しく、僕の火照りを冷ましていく。
「もう一回、体洗わないと」
「ほんと、風邪ひいちゃう」
 体を起こし、立ち上がりかけたさくらが、僕を見下ろして、動きを止めた。
 どうした、と声を発するより早く、さくらの体が折れて、ちょん、と触れるだけのキス。
 うふふ、と笑うと、流れ落ちる髪をかき上げて、今度こそ立ち上がった。僕が抜けていく瞬間だけ、少し切なそうにも見える表情を浮かべて、洗い場に向かって歩いて行った。
 しっとりしているような、さっぱりしているような。
 不思議な魅力の女の子だ。
「風邪ひきますよっ」
「はーい」
 気怠い体を起こして、さくらの呼び声に応える。




 海の幸、山の幸に溢れた夕食に舌鼓を打ち、浴衣を乱し、
 腹ごなしを終えて再び湯につかり、水面を乱し、
 布団に入っても“仲睦まじく”、シーツを乱し、
 時間を惜しむように、乱れに乱れた。

 そんなわけで、帰りの運転中、僕は疲れに疲れ切っていた。
 さくらも助手席で大きな欠伸を、小さな手で隠している。
 見られていたのに気付いて、
「ごめんなさい」と慌てて手を下した。
「寝てて良いって言っただろ」
「でも、もうすぐ旅行も終わっちゃうのに、もったいないじゃないですか」
 はて。
 こんな会話、つい最近した気がする。
 気がするけれど、疲弊しきった肉体が、記憶を探る脳の活動の足を引っ張っている。
 まあいい、些細なことだろう。
「楽しい時間って、あっという間に過ぎていきますね」
 もうすぐ旅行も終わってしまう。
 楽しかった、と言っても、いつもとは違うシチュエーションに興奮して、お互いを求めあっていただけのような、そんな気もする。
 疲れているはずなのに、疲れ切っているはずなのに、思い出すとまだ、むずむずと情欲がうごめいて、節操がないなあ、と我ながら呆れる。
 それを誤魔化すように、
「また行こう。今度は海とか」
「海もいいですね! でも、おにいさんは大丈夫?」
 泳げるのか、という意味でないことは分かっている。温泉でさえ“ああ”だったのだから、水着姿のさくらを見て平常を保っていられるのか、とからかっているわけだ。
 僕は少し苦味を含んだ笑みを浮かべて、
「さくらこそ、我慢できるのか?」なんて、返してやる。
 失敬な、と、さくらは半ば噴き出しながら返してきた。
 赤信号になって、ブレーキを踏んだ。あまり大きくない交差点で、歩行者も車も通らない。こういう時は、1台くらい通ってくれ、と思ってしまう。
「おにいさん、私のこと好きですか?」
 不意に、さくらが問いかける。
 当たり前のことを、時として確認したがる。遊びのように、いたずらのように。
「いや、好きじゃない」
 僕の返答に、眉間のあたりを険しくするさくら。けれど、口元は緩んでいて、なに言ってるのこの人、と今にも突っ込みそうな気配。
「大好き」
 僕が続けて、畳みかけるように告白すると、さくらはたまらず噴出した。
「きざ」ひとしきり笑ったさくらが、ぽつりと言う。そして、「私なんて超大好きだし」
 対抗してきた。
「そうなんだ、僕はそこまでではないな」
「ちょっと! そこは乗ってくるとことでしょーよ!」
「いやあ、そこまで愛されてるなんて幸せだなあ」
「もー! ずるいっ!」
 停車しているのをいいことに、乗り出して僕の腕を引っ張ってくる。
 もうすぐ終わってしまうたびを惜しむように、じゃれあう。
 どうせ帰ったらすぐにラインはするだろうし、電話をして、仕事終わりにちょっと無理してあったりするのだけど。
 それでも、今この時間が、終わってしまうのが寂しい。
 だから。
 乗り出して近づいたさくらの唇に、唇を重ねた。
 不意打ちでキスされて、目を見開いて驚くさくら。
「もう、ずるいんだから」
 唇を尖らせて拗ねたような表情になるけれど、目元は綻んでいる。
 僕からしたら、その表情こそがずるい。
 信号が青になった。
 ゆっくりと車を発進させる。
 楽しい旅行が終わる。
 そして。
 さくらとの、楽しい日常が、また始まる。



[9] Re: かりん

投稿者: フォフ 投稿日:2016年11月26日(土)22時34分16秒   通報   返信・引用 > No.2[元記事へ]

「ただいま」
 自分でカギを開けて家に入ると、冷たい空気が私を出迎えた。
 両親は出かけていると知っているけれど、兄はどうなんだろうか。
 靴はあるみたいだけれど、チェーンはかかっていなかったし、出かけているのだろうか。
 それにしても、ジャスミンが迎えに出てこない。リビングの扉の脇にある猫用のドアを見つめるけれど、開く様子はない。いつもならお留守番してるときは、誰かが帰ってくるとお出迎えしてくれるのに。にゃーとも鳴かない。
 どうしたんだろう。
 ブーツを脱ぐのに手間取って、バランスを崩しながら家に上がり、リビングに向かう。
 扉を開けて、中を覗くと、寝ていたジャスミンがこちらをちらりと見て、また目をつぶった。
 ジャスミンが出てこない理由が分かった。
 リビングのソファで寝ている……兄の腹の上で丸くなって寝ていた。
 ご飯をあげるのは私か母。
 よく遊ぶのは父。
 ブラッシングは私か父。
 兄が担当しているのは、病院に連れていくことと、たまにお風呂に入れること。
 どっちもジャスミンは嫌がるっていうのに、なぜか兄に一番よく懐いている。
 納得いかない、という話していたら、猫を飼っているハロプロのメンバーはたいてい、猫ってそんなもんだよ、と言っていた。
「そんなもんなの?」
 ジャスミンに問いかけても、尻尾の先をぱたぱた振るだけだ。顔を上げるのは面倒だから、尻尾で返事をする。
 納得いかない。
 うりうり、と頭を撫でると、ゴロゴロと喉を鳴らす。
 猫を撫でると、なんでこんなにも心が落ち着くのだろうか。
 ジャスミンを撫でていた私の手に、ふわっとかぶさる大きな手。
 兄の手が、私の手を撫でている。
 え、と思って兄を見るが、目を閉じたままだった。
 そうか、私が撫でているのを、ジャスミンが動いていると勘違いして、ジャスミンを撫でているつもりなんだ。
 びっくりした。
 びっくりした、けれど、なんだか心地よくてそのままにしてしまう。
 今朝までの私だったら、跳ね除けて逃げてしまっていただろうに。
 不思議と、落ち着いている。
 ジャスミンが顔をあげて、私をじろりとにらんだ。
 まるで、その手はわたしのよ、と兄の手の所有権を訴えているみたい。
「違うよ、私のだよ」
 ジャスミンに反論する。
 私のっていうのは、自分で口にしておいて、照れる。
 照れた私の手が、きゅっと握られた。
 わ、と声を出しそうになる。
「佳林……?」
「あ、うん、おはよう」
「おはよう……あぁいや、おかえり」
「うん、ただいま」
 手を握ったまま兄が言い、握られたままの私が返す。
 兄が体を起こそうとして、私の手を握っていたことに気づき、手を放すと誤魔化すように、ジャスミンの頭を撫でた。
 ジャスミンは気持ちよく寝ていたのに、寝床が動き出そうとしているので、にゃーと文句を言う。
 兄は構わず、ジャスミンを持ち上げ、体を起こした。今まで自分が寝ていたところにジャスミンを降ろしてやる。少しでも温かいところに、という兄の優しさかもしれないけれど、ジャスミンは不機嫌そうに尻尾でソファを叩く。
「コーヒー飲むか?」
「インスタントじゃない方なら」
「分かった分かった」
 着替えてこい、と言って、キッチンに向かう兄。後を追うジャスミン。
 寝ぼけているせいだろうか。
 いや、きっと違う。
 私が避けていないなんてこと、たぶん兄は気にしていない。気づいてはいるんだろうけど、兄はこういう時に何も言わない。
 いつもそこに立って、待っていてくれるんだ。

 私がコーヒーを好きになったのは、兄の影響だ。
 両親が再婚する前から、兄はコーヒー好きで、バイトをして器具を買い揃えていた。就職してからは器具を買い替えて、今残っているのは手動のコーヒーミルくらいだけど、家族の人数分作るのは電動の方が楽らしく、思い出の品として部屋に飾ってある。
 ドリッパーやサーバー、カップを温めておくための温蔵庫まで買っている。
 サイフォンにも興味あるみたいだけど、見ている限りあまり自分で淹れている感じがしないから、とペーパードリップで淹れている。飲む分にはサイフォンでもネルドリップでも、コーヒーメーカーでもインスタントコーヒーでも、缶コーヒーでも構わないというのだから、こだわりと言うほどのものではないのかもしれない。
 ペーパードリップと言う、コーヒーの淹れ方が好きなんだろう。
 コーヒーを淹れる兄の姿も、コーヒーが好きになった理由のひとつかもしれない。
 テーブルの向かいで、てきぱきと準備する兄の姿を見ているのが好きだ。
 冷凍庫から取り出した保存瓶から、計量スプーンで2人分の豆をすくって電動ミルに入れる。カフェインが喉に悪いからとか、体が冷えるからとか言って、コーヒーを飲むのをやめると言い出した時があって、それ以来、我が家ではカフェインレスの豆を使っている。
 台形ドリッパーにペーパーフィルターをセットし、コーヒー豆を入れたら表面を平らにして、サーバーの上に置いた。
 電気ケトルで沸かしたお湯をドリップポットに移し、フィルターにお湯がかからないようにお湯を注ぐ。
 お湯を注がれた豆が、ふわりと花開くように膨らみ、ぽたぽたと数滴、サーバーにお湯が落ちて、しばらく蒸らす。
 いい匂い。
 どこか甘い、不思議な香りが、部屋に広がっていく。
 蒸らしが終わったら、慣れた手つきで「の」の字を書くように、くるくるとポットの細口から3回に分けてお湯を注ぎ、完成。
 温蔵庫から取り出したカップに、出来上がったコーヒーを注ぎ、テーブルに座る私の前に置かれた。
「どうぞ」
「ありがとう」
 自分の分をカップに注ぐと、先に陣取っていたジャスミンを隣りに移動させて、座った。ジャスミンはさも当然のように、兄の膝に移る。
 一口含むと、香りと苦みが広がり、それからほのかな酸味が舌を撫でていく。
「美味しい」
 私が呟くと、兄も満足そうに微笑み、コーヒーに口をつけた。
 2人の間には、コーヒーの香りだけが漂っていた。
 そして。
 そして私は、唐突に、だけど自然に、その言葉を口にした。

「私、おにいちゃんが好き」

 不思議と、落ち着いた気持だったのは、コーヒーが美味しいおかげかもしれない。
 兄は少し目を見開いて驚き、それから困ったように目を伏せた。
 ちゃんと、意味が伝わったんだ。
 それが嬉しくて、でもちょっと後悔した。
 しばらく黙り込んだ兄が、コーヒーを一口飲んで、
「佳林のこと、ずっと見てたから、いつかこんな日が来るんじゃないかって、思ってた」絞り出すように言った。

「男として考えたら、佳林みたいな可愛くて優しい子に好きだって言われるのは、嬉しいよ」
 目を伏せたままの、兄の唇から流れ出た言葉に、胸が鳴る。
 嬉しいって──嬉しいって言ってくれた。可愛くて優しいって。
 それだけで泣きそうになった。
「だけど、兄の立場で考えると、佳林が『この人が私のカレシです』って連れてきた男が、俺みたいなやつだったら、本当にこいつで大丈夫かって思うこと間違いなしだからなあ」
 表情を曇らせて、兄が頭を抱えた。
 私は唖然として、それから噴き出してしまった。
 一人二役。自分相手に「お前なんかにお兄さんと言われる筋合いはない」とかやってる兄を想像して、私はとうとう耐え切れなくなって声をあげて笑ってしまった。
 兄が、笑うな、と、こちらを睨むので、ようやく笑いすぎたなと思い、落ち着いた。
「おにいちゃんも、複雑なこと考えてたんだね」
「当たり前だ」
「でも大丈夫、私、おにいちゃんよりかっこいい人に会ったことない」私の言葉に、ぽかんとなる兄。「おにいちゃんより好きな人なんて、この先ずっと、現れないって、言えるよ」
 予感めいた確信がある。
 確信めいた予感かな。
 兄は背筋を伸ばして、まっすぐに私を見た。
 つられて私も、背筋を伸ばした。
「俺の答えは決めてある」小さく深呼吸をして、「佳林がアイドルとしてやりたいこと全部やって、満足できた時、ちゃんと気持ちに応える」
 その言葉はつまり……
 察することは出来るけれど、はっきりと言葉にしてほしかった。
「佳林が言わなければ、別の男と付き合うようになれば、俺は兄でいようって思ってた。なんていうか、その……失恋する準備はしていたんだ」
 失恋……ってことは、つまり……
 つまり……
「はっきり言ってよ!」
 じれったくてつい、声が鋭くなる。
 うっと、珍しくひるんだ顔をした兄が、
「俺も佳林のことが好きだ」
 その言葉を、私が望んでやまなかった言葉を──
 みぞおちのあたりから熱が広がり、体中が燃えたような錯覚に陥る。
 急に恥ずかしくなった私は、真っ赤になった顔を俯かせた。
「はっきり言えって言っておいて、急に照れるなよ」
「そ、だけど……」
 消えそうなか細い声を、かろうじて絞り出す。
 嬉しい。恥ずかしい。ドキドキする。
 どんな顔をしているのか、分からない。
 笑っているような、でも目頭が熱くなってきて泣きそうな、心に積もっていた悩みとか想いとか、いろいろなものが一気になくなって穏やかなような、なんだかいろんな感情が一度に吹き出してきて、変な表情になってないか心配だ。
 けど、
「おにいちゃん……そっちいっていい?」テーブル越しじゃなくて、隣に、近くに寄り添っていたい。
「だ、だめだ」
 なんで、と顔を上げると、真っ赤になった兄が、そっぽ向いていた。
 見たこともない、変な顔をしていた。
 そうか。
 私と同じなんだ。
 うふふ、と声が漏れた。
 にゃー、と兄の膝の上でジャスミンが鳴く。祝福してくれているのか、嫉妬しているのか。
 兄はその鳴き声で、固まっていたみたいな息を吐き出して、コーヒーを飲んだ。
 私もマネするみたいに、カップに口をつける。
「美味しい」
 さっきとは違う、どこか甘みを感じさせる不思議。
 兄が、柔らかい表情で微笑む。
 きょうだいとしてではない、少しだけ甘い空気が、確かに揺らめいていた。

 いつか。
 私がすべてやり遂げるまで。成し遂げるまで。
 たっぷり時間をかけて楽しもう。
 この思いが成就するまで10年待ったんだから、おにいちゃんを10年待たせてやろう。

 前途多難だった私の初恋。



[8] Re: かりん

投稿者: フォフ 投稿日:2016年11月26日(土)22時09分47秒   通報   返信・引用 > No.2[元記事へ]

 紗友希の家族に送ってもらう、と家族のグループにメッセージを入れた。
 高木さんにお礼しないとな、と父。
 よくお礼を言っておくのよ、と母。
 ……しばらく画面を見つめていたけれど、兄のメッセージは来なかった。
 仕事が休みだから迎えが必要なら連絡するように、と言っていたので、了解、くらいは書くと思うんだけど……
 もうしばらくだけ見つめ、ポケットにしまって、ため息をついた。
 風邪をひいて寝込んでから、もう1週間以上経っているけれど、兄と顔を合わせづらいというか、目を見ることが出来ないというか、つい避けるような態度をとってしまっている。
 紗友希の家族に送ってもらえそうな時でも、兄に迎えを頼むこともあった。
 なのに。
 リビングですら無理、ダイニングテーブルに向かい合うのも無理、部屋の前を兄が歩く足音でさえもドキドキして無理なのに、車の中で2人きりなんて絶対無理!
 風邪は治っても、自覚できるほど悪化している──恋の病は。
 恋。
 うう、恥ずかしい……
 顔が熱くなるのを感じて、排熱するようにため息をついた。
「はあ」
「何さっきから溜息ばっかり」
「ぅわっ! さ、紗友希、なに、びっくりするじゃん、いきなりー!」
「いや、さっきから声かけてたんだけど」
 いつの間にか事務所から出てきていた紗友希が、驚いた様子で目を丸くしていた。
「そうなの? ごめん……」
「いやまあ、いいけど……」
 そう言って駅に向かって歩き出す。
 自分でもはっきりと分かるほどの情緒不安定で、周囲を困惑させていることも、何となく感じている。
 早く、元の自分に戻りたい……

 電車に揺られ、並んで座る。
「佳林と一緒に電車に乗るのって、いつぶり? けっこう前だよね」
「そうだね。もう1年……以上ぶりくらいかな」
 メジャーデビューするまでの、エッグ時代、研修生時代は地元の駅まで一緒に帰ることもあった。最寄り駅は違うけれど、車で送ってもらうときは紗友希の下りる駅で一緒に下車する。
 時間帯のせいなのか人が少なくて、車両はほとんど貸し切り状態。こんなに空いている車両も珍しい。
 電車……揺れて……肩を……
 ぷるぷると頭を振って、顔を出しそうになる回想を追い出した。
「なに、急に?」
 紗友希が驚いた顔を、こちらに向けている。
「あ、ごめん、ちょっと……」かゆくて? とか自分でも疑問形で答える。
 ふうん、とジト目を向けてくる紗友希。
「なんか変だよ、最近」
「変? 何が?」
「何が、じゃないよ。ダンスもとちるし、歌詞飛ばすし、忘れ物はするし、普段の佳林だったら考えられないくらいミスしてたじゃん」
 う、と言葉に詰まる。
 確かにここのところ失敗続きで、最初は怒っていた先生やマネージャーさんも、今日なんかはまだ風邪が治ってないんじゃないかと、心配されたほどだった。
 それと言うのも、何をしていても、兄の事が思い出されて、そのことで頭がいっぱいになってしまうせいだ。
 今までこんなことなかったのに。
 本当に、まだ風邪が治ってないんじゃないかって、自分でも思えてくる。
「お兄さんと何かあった?」
「なっ──」不意打ちで核心を突かれ、動揺するのを誤魔化す。「──に、言ってるの、別にそんなこと、ないよ」
「佳林さ、お兄さんのこと、好きでしょ?」
 私たちきょうだいが、義理のきょうだいだということを、紗友希は知っている。
 昔はあまり、深く考えずにそのことを打ち明けていたから、エッグ出身者の中には、ひょっとしたらそのことを覚えている子もいるかもしれない。
「な、何言ってんの!? そんなわけないじゃんっ、きょうだいだよ!」
「兄妹として好き、って答えても良かったんじゃない?」
 あ、と息を漏らし、自分の失敗に気づく。
 紗友希のぱっちりとした澄んだ瞳が、私を見つめる。
 その瞳に映る私の顔が、見る見るうちに赤くなっていく。
 かあっと、顔が熱くなり、耳なんて火を噴きそうで、首筋から羞恥が広がっていく。体が内側から燃えているみたいに熱い。
 思わず俯いて、両手で顔を覆う。
 逃げ出したい。
 立ち上がろうとした私の肩を、紗友希が掴んだ。
「どこ行く気!?」
「ゴメンナサイ、ハナシテクダサイ」
「放さないし!」
「ゴメンナサイ、モウゲンカイデス」恥ずかしさが。
「佳林、落ち着いて!」
 うう~っ、と覆った手を仮面のように顔に押し付けて、体を折り曲げる。
 紗友希の手が、私の背中を、子供をあやすように撫でる。
「この前さ、お兄さん来たじゃん、イベントに。その時にさ、ともと喋ってるお兄さん見てる佳林がさ、なんか変だったなあって思って。兄弟としてじゃなく、男の人として好きなのかなって思ったら、カチッとはまったっていうか……分かっちゃったんだ」
 鋭い。
 紗友希の女の勘は、思っていた以上に、鋭かった。
 見抜かれていた、と知って、諦めがついたというか、覚悟が決まったというか。
 体は熱いままだけれど、体を起こした。
「私……おにいちゃんのこと、好き、なんだ」
 初めて、口にした。
 口に出して、人に伝えた。
 思っていたよりも、滑らかに口からこぼれていった。
 紗友希は、うん、と頷く。
「風邪ひいて寝てた時にね……おにいちゃんに、そのこと言っちゃったかもしれなくて、でも夢だったのかよく分かんなくって。おにいちゃんもそのことには全然ふれないし……でももし、現実だったらって思ったら、もう、おにいちゃんの顔、見てらんなくって。なんかもう、頭の中ぐちゃぐちゃで」
 ため込んでいた気持ちが、一気に溢れてくる。
 胸を抑えつけていた重りが、軽くなる。
 今まで10数年生きてきて、1人で抱え込んできた荷物を、少しだけ下ろせたような気分だった。
「なぁんだ、そんなことだったんだ」
 あっけらかんと、少し笑いながら紗友希は言った。
「そんなことって……」
「だって、佳林があまりにも深刻そうだから、お兄さんが結婚することになったとか、ひょっとして、とものことを好きになったって言われたとか、そういうことだと思った」
 まあ確かに、紗友希が並べたことに比べれば、たいしたことはないんだけど……
「おにいちゃんと、ともって、お似合いだと思う?」
「全然」
 にっこりと、はっきりと、紗友希は言った。
 ちょっと衝撃だった。
「でも、仲良さそうにしてたし」
「あれ、ともの余所行きじゃん。ファンの人相手の時と話し方、同じだったし」
 そう言われると、確かにそうかもしれない。
 仲良さそうに喋ることが出来るのは、人との距離感のとり方がうまいからだ。自分の得意な距離に踏み込んで、その距離を保つのがうまい。
 変に力の入った全力ではなく、かと言って適当にあしらっているわけでもない。
 “ちょうどいいところ”にいる。
 それは私には出来ないことで、朋子を羨み、憧れもした。
 Juice=Juiceでデビューして、みんな個性的で、私にはいったい何があるんだろうと、悩んでいた頃がある。
 そのことを兄に打ち明けたら、「個性は自分で見つけられるもんじゃない。周りの誰かから教えてもらうものだ」と、遠い目をして答えてくれた。
 視界を覆っていた、歪んだガラスが割れて、周りが明るくなったような、そんな気持ちになった。
 もっとも、言われて嬉しい個性ばかりじゃないけどな、と付け加えた兄の顔は、まったく明るいものではなかったけれど。
 兄は私にとって、目印みたいな人だ。
 迷ってもそこを目指せば、自分を取り戻せる。
 ただ好きってだけじゃなくて、頼りになるからますます……
 ……はっ。と、我に返る。
 気の抜くと、兄のことを考えてしまっている。
「佳林はさ、お兄さんとどうなりたいの、こう、最終的には」
「最終的……そうだなぁ」
 答えはあった。
 けれど、イメージを口に出そうとすると、何か違う気がして、川の流れに手を差し込んだみたいに、指の隙間から言葉がすり抜けていく。
 少し悩んで。
 紗友希はそれ待っていてくれて。
 一番イメージに近いのは、
「家族になりたい」
「今も家族でしょ。今のままでもいいってこと?」
 やっぱりそうなっちゃうよなぁ……
 うまく言葉にできない。

「そうじゃなくって、なんていうか、えっと……

 おにいちゃんの、子供が欲しい

 って言うか……」

 やっぱり何か違う気がした。
「……えっち!」
「違う! そういうんじゃないの!」
 私が赤くなりながら否定すると、紗友希は笑い出し、
「分かったって。言いたいことはなんとなく分かった」言ってることは分かんないけど。
「ほんとにぃ?」
「おじいちゃんになっても、おばあちゃんになっても、ずっと一緒にいたいってことでしょ?」
「……う、うん」
 合ってる。
 そう、ずっと一緒にいたい。
 絆を深めていきたい。
「紗友希と話してたら、なんか、気持ちがはっきりした」うん。「ありがとう」
 そう、と紗友希は頷くと、急に笑顔を引っ込め、表情を引き締めた。
「念のため言っとくけど、ドラマみたいなことにはなんないでね」
「なんないよっ!」
 私が否定すると、紗友希は少し固く、少しだけ笑う。
 冗談とも本気ともとれる声色で、
「佳林は思い込んじゃうと、突っ走っちゃうからなあ」呟くように言った。
 その声の揺らぎに、紗友希の複雑な心情が聞こえた気がした。
 友達として応援したい気持ち。
 同じグループのメンバーとして戒めたい気持ち。
 女の子として恋が実るようにと願う気持ち。
 エッグ時代から共に成長してきたライバルとして、アイドルの自覚を忘れるなと、私の思いを引き留めたい気持ち。
 いろんな気持ちが混ざり合って、それでも私の思いが叶うようにと、選んでくれた。
 私のことを、思ってくれているのだと気づいて、私も表情を引き締めて、応える。
「大丈夫だよ。私、アイドル好きだし、みんなことも好きだし。だから、大丈夫」
 紗友希は、うん、と頷いて笑ってくれた。
 それから紗友希は、私の肩に頭を預けて、
「頑張ってね」と、零れるように、呟く。
「うん」
 短く返して、私は紗友希の手を握った。
 紗友希の手は冷たくて、明るく振る舞ってはいたけれど、よほど緊張していたんだと分かる。
 ありがとう。
 声には出さなかったけれど、きっと伝わった。
 紗友希には伝わったはず。
 答えるように、紗友希の手が、私の手を握った。



[7] Re: かりん

投稿者: フォフ 投稿日:2016年 3月 5日(土)22時24分23秒   通報   返信・引用 > No.2[元記事へ]

 お休みの日で良かった。
 ベッドの上で布団をかぶった私は、ぼんやりと天井を見つめながらそう思った。
 おでこには冷却シート。
 体温は37度。
 完全に風邪だった。インフルエンザでないだけ良かったけれど、熱のせいで、意識がぼんやりしている。
 お仕事のない日で良かった。そう考えるほどには、仕事が好きみたいだ。と言っても、学校はあったんだけど。
 昨日は地元でイベントがあって、兄が迎えに来てくれて、そして、兄に、兄と朋子がお似合いだと、言ってしまった。
 思ってもいないことを。思いたくもなかったことを。
 家に着いて、兄に声をかけられても眠気が取れず、頭が重かったので、念のために熱を計ってみたら、38度を超えていた。
 すぐに寝かされて、朝一で検査してもらった結果、インフルエンザではないということで、治るまで安静にするように言われた。
 昨日よりも熱は下がっているし、今日一日寝ていればきっと治る……と、いいな。
 検査についてきてくれた母は、インフルエンザではないと分かり胸を撫で下ろし、仕事を休んで看病をしてくれるつもりだったみたいだけれど、寝ているだけだからと説得して仕事に行ってもらった。母も仕事が好きな人で、時計をちらちら見ていたり、職場に電話をかけていたりで、正直に言えば、ちっとも落ち着かない。一人にしてもらった方が楽だった。
 気持ちの上でも、今は一人でいろいろ考えたいところだ。
 あんなことを、言ってしまったのは、結局、熱のせいだったんだろうか。
 本当の気持ち、ではない。
 でも、このまま実らない想いだったら、いっそ。止めを。
 そういう思いがあったのも事実だ。
 朋子ともは誰とでも仲良くなれる。
 握手会でもファンの人と、まるで長年の友人のように、気安くお話している。相手がメンバーである私の家族と言うことなら、なおさら心を開いて話していたかもしれない。
 兄だけが特別と言うわけではない、とは思う。
 でも。
 だけど。
 お似合いだって感じたのも、事実で。
 こんなことを考えていても仕方ないというのは解っている。朋子自身の気持ちを脇に置いての、私の勝手な空想なのだから。
 兄と朋子だったら。
 2人が付き合ったら。
 受け入れられる。と思う。
 うつらうつらと、意識が揺らぐ。

 ぼんやりしていると、視界に兄が入ってきた。
 焦点の合わない意識で、兄を見ると、心配そうにこちらを見下ろしている。
 大丈夫か、と兄が聞くので、小さく頷いて見せる。
 鈍った思考で様子をうかがうと、スーツ姿の兄が、私のおでこに貼られている冷却シートを剥がして、新しいものと交換してくれた。
 前髪をあげられて、くすぐったい。
 冷たい、と口にしたつもりだけど、自分の耳にはうまく届かなかった。
 ひんやりとしているのは判るけれど、どうにも感覚がおかしい。体の表面に一枚布がかぶせられているような、外界が遠いような感覚。
 そうか。
 夢を見ているのか。
 外はまだ明るいし、こんな時間に兄がいるわけがない。
 夢の中で、夢だと気づくことを明晰夢と言うんだそうだ。
 夢なら、いいだろうか……
 夢の中なら。
 素直な思いを、口にしてしまっても。
 まどろみに緩んだ理性では、私の思いを止めることは出来なかった。
 私は……

「私ね──

 ………………
 …………
 ……って!
 眠気が一気に剥ぎ取られる。
 ぱっちりと開いた眼で、部屋の中を見回す。
 薄暗い部屋に一人。
 誰もいない。
 兄もいない。
 ほっと、胸を撫で下ろす。
 大きく息を吐いて、呼吸を整える。
 胸がドキドキして、落ち着かない。
 夢だった。
 夢の中での会話を思い出して、顔から火が出そうだった。心臓から体中の血管に高温の血液を巡らせている。風邪のせいじゃない熱だって判る。
 夢で良かった。
 夢……だよね?
 体を熱くしていた血が、一気に冷えていく。
 まさか。
 けれど、兄ならば、私の心配をして仕事を早退してくるくらいのことはしそうだ。結構きつく、はっきりと、寝てるだけだから、一人で大丈夫だからと言っておいたけれど。
 布団を跳ね除けて、ベッドを降りる。
 布団の上に置いてある、部屋着のフリースを羽織って、部屋を出る。
 廊下は暖房の効いている室内よりも一段も二段も寒く、薄暗かった。
 人がいる気配はない。
 この時点でほぼ、兄がいないことは確信していたけれど、念のため、部屋を確認しに行くことにした。念のため。
 ぺたぺたとスリッパが、少し間の抜けた音を、廊下に響かせた。私の部屋は階段を上がってすぐで、兄の部屋は2階の一番奥。
 夕日のオレンジも去った扉の前で一つ、深呼吸をして、ノック。
「おにいちゃん」
 声をかけてみるが、返事はない。
 ほんの少しだけためらって、ドアノブをまわし、中の様子をうかがう。
 やはり、というか、明かりは点いておらず、薄暗い。人のいる気配もない。
 やっぱり、夢、だった。
 ドアを閉じて、改めて胸を撫で下ろす。
 どうせ夢だったら、何もかも、ハッピーエンドになってくれたら良かったのに。
 安心した途端、くう、とおなかが鳴った。
 そういえば、薬を飲むために、ゼリーを食べたっきりだ。
 お腹空いたな……
 いつもなら間食は控えるけれど、今日はいいだろう。というか、間食にあたるんだろうか。
 そう言えば、慌てていて時計も見ていなかった。いま何時だろう。
 部屋に戻るのも億劫なので、下まで行って何か食べよう。
 階段を下りて、ついでに廊下の電気をつけて、キッチンに向かうためにリビングを抜けようと扉を開けると、物音がした。
 はっとそちらを見ると、にゃにゃにゃ、と鳴き声を揺らしながら、ジャスミンが近づいてきて、脛に体をこすりつける。
「ジャスミン、心配してた?」
 判っているのかいないのか、にゃあ、と鳴いて足にまとわりつく。
 これはあれだ、お腹空いたアピールだ。
 時計を見ると、ご飯をあげるには少し早い。せっかくダイエットに成功したのだから、キープしないと。
 ふわふわの毛並みを撫でて、ジャスミンの空腹の訴えを誤魔化す。
 それより私の空腹の方を解決しないと。
 パンか、それとも、冷凍してあるご飯を解凍しようか。
 冷蔵庫を開けると、ゼリーやプリン、ヨーグルトが積んであった。
 冷蔵庫を閉じる。あまりに勢いをつけて閉じたので、派手な音がして、ジャスミンが驚いて離れた。
 病院の帰りに母が買ったにしては、量が多くないだろうか。
 そんな疑問がよぎった瞬間、ある考えが浮かび上がってくる。
 兄がいったん帰ってきて、私が食べやすいものを買って、また会社に向かったとすれば……
 私の様子を見て、冷却シートを貼り替えて、そして……そして……
 ゴン、と冷蔵庫に頭をぶつける。
 ジャスミンが何事かと目を見開いている。
 どっちだ。
 あれは、夢だったんだろうか。
 夢じゃなかったんだろうか。
 夢じゃなかったとしたら、どうしよう……
 あんな。
 あんなこと……


「私ね、おにいちゃんのことが好き」

「分かってるから、今は寝てろ」

「違うの、キョウダイとしてじゃなくって」

「分かってるから」

「だからっ、男の人として……恋人になってほしいって……」

「ああ、知ってる。今は休め」

「そうじゃなくて……、……え? 知って……って? あれ?」

「佳林の気持ちは、分かってる。見てたら分かるよ、佳林のことは。10年も見てるんだから」

「さすが、おにいちゃん」

「いいから、今は寝てなさい」

「……はい」

「恋の病で寝込む人間を、俺は初めて見たぞ」


 うまいこと言うなあ。
 ……じゃなくて。
 恥ずかしくて熱いような、とんでもないことを言ってしまって寒気がするような。
 また具合が悪くなってきた。気がする。
 少なくとも空腹は吹き飛んだ。
 ジャスミンが心配そうに近づいてくる。猫は人が悩んでいるときに寄り添ってくれるのだという。
 柔らかいふわふわを抱き上げて、顔をうずめる。
 にゃおう、と明らかに抗議の鳴き声。私の腕の中で暴れるジャスミン。
 私の今の心みたいに、じたばたと暴れる。
 夢だったのか、夢じゃなかったのか。
 どっち。
 どっち……!?



 その日、一番早く帰ってきたのは父だった。
 ジャスミンを拘束している私を見て、
「もう、大丈夫そう……だな?」と首を傾げた。
 このあたりの言葉の使い方は、兄にも受け継がれている。
 諦めたのか、ジャスミンは腕の中でごろごろと喉を鳴らしている。
「うん、大丈夫。熱は下がったよ」
「そうか。プリンとかぜりーとか買ってきたけど、まあ、無駄になるもんじゃないよな」お母さんに怒られちゃった、と苦笑い。
「……え、お父さんが買ってきたの?」これ、と冷蔵庫を指差す。
 ああ、と頷いた父は、
「遅刻するって会社に連絡して、買ってきたんだけど、心配しすぎだし、だいいちこんなにいらないってさ」
 たしかに、私が食べるにしては、3食ゼリーでも何日休ませる気なんだって量だった。
 いや、それよりも。
 兄は帰ってきてないのか。
 やっぱりあれは夢だった。
 良かった。
 腕の中のジャスミンを撫でる。何かいろいろ諦めて、私の拘束……抱擁を受け入れてくれている。
「そういえば、瞠も昼休みに戻ってきてたみたいだけど」
 ……え?
「え? おにいちゃんかえってきてたの?」
「声かけても反応ないくらい、ぐっすり寝てたって、メールが」
 それならいい、けれど。
 仮に夢じゃなかったとしても、あんなこと、あんな会話があったこと、いちいち父に連絡するはずがないし。
 本当に寝ていたのかもしれない。
 寝てなかったとしたら……


 結局、どっちなの!?


 言葉にするわけにもいかず、ぎゅっと抱きしめたジャスミンが、私の代わりに、にゃあ、と声を出した。



[6] Re: かりん

投稿者: フォフ 投稿日:2016年 1月23日(土)22時55分53秒   通報   返信・引用 > No.2[元記事へ]

 ステージからの光景は、何度見ても気持ちが高まる。
 ファンの人たちの笑顔が溢れて、輝く。
 私も負けじと笑顔を向け……つんのめった。
 最前のファンの人が驚き、隣にいた由加が支えてくれた。
 ありがとう、と目で伝えて、パフォーマンスに復帰する。
 だけど、ステージに集中することができなかった。
 客席の最後尾、兄が、無表情のまま両手にペンライトを振っている。
 ……しかも光っているのは黄色と緑だった。
 私の笑顔は引きつっていたはずだ。

「なんで、おにいちゃん来てるの!?」
「……佳林が驚くかなって思って」
「驚いたよ、めっちゃ驚いたよ!」
「それは良かった」
「良くないよ! なんで嬉しそうなの!? ちょっとミスっちゃったし!」
「佳林もまだまだだな」
「誰のせい!?」
 イベントが終わり、着替えも反省会も済んで、主に精神的に疲れた私は、しばらくして楽屋に顔を出しに来た兄に向かって、両手を振りながら訴える。
 喉が疲れているのに、これ以上叫ばせないでほしい。
 けれど、兄はどこ吹く風と言う表情だ。
「すごい、佳林ちゃんがツッコミしてる」
 朋子の笑い混じりの声に、言葉が途切れた。
 確かに、突っ込まれることはあっても、突っ込むことは出来てない。本当は、メンバーに対してもしたいんだけど、なかなか巧くいかない。兄相手だとこんなに言葉が出てくるのに。
「お兄さんといる時はこんな感じだよ」
 紗友希の声が弾んでいる。
「紗友希ちゃん久しぶり。歌、巧く……すごくなったね」
「ありがと、お兄さん!」
 兄と紗友希が笑いあう。と言っても兄の方はわずかに口角を上げた程度だ。
 紗友希とは家が近いこともあって、ハロプロエッグ時代から、レッスンやイベントの送り迎えを、お互いの家族で分担していたこともあった。
 兄とはその時に顔を合わせている。二人が親しげに話していても、全く気にならない。そんな雰囲気が全く漂ってこないからだろう。
 だから、怖かったのかもしれない。
 金澤朋子となら、そんな雰囲気が出てきそうで。
「黄色と緑でしたよね、ライト。なんで赤振ってくれなかったんですか?」
 朋子が違和感なく、するりと会話に入り込んできた。まるで旧知の仲と言ったふうに話しかける。
 兄も驚いた様子もなく、
「まあ、研修生時代に妹がお世話になってた子たちだから」すんなりと答えた。
 たぶんこの楽屋の中で、そのやり取りに、一番敏感に反応しているのは、私だ。警戒、と言ってもいいかもしれない。
「私も研修生でしたよ」
「でも短かったから、面識は……あ」思い出したように、「はじめまして、宮本佳林の兄、宮本瞠です」
 計ったように45度、上体を折り曲げて、今更な挨拶する兄。
 朋子もさすがに驚いて、慌てて頭を下げた。
「あ、はい、はじめまして。みはる?」
「目を『瞠る』のミハル」スマホで変換して、と付け加える。
「変わった名前ですね、覚えやすそう」
「よく言われるよ、図体に似合わない名前だって」
「そんなことないですよ、ギャップ萌えっていうやつですよ」
「見た目と名前で、ギャップを感じるってことじゃないかな、それ」
 兄の言葉に笑い声をあげる朋子。
 さっき兄が言ったように、二人は今日初めて会ったはずなのに、会話が弾んでそれを感じさせない。紗友希も二人の会話を楽しそうに聞いている。
 二人の会話は続いていて、時々笑い声も響いて、親しげで楽しげで、まるで……まるで、長年の付き合いのあるような、お似合い、と言うような……
 気が付けば、目蓋が重くなってきている。二人の様子が視界に入らないように、目を伏せる。頭が重い。自然と俯いていく。
 私だけが、取り残されているようで……
「どうした、佳林?」
 不意に声をかけられて、俯きがちだった顔を上げる。
 私を覗きこむ、兄の顔が目に入る。
「……なにが?」
「疲れたのか?」
「別に、そんなことないよ」
 なんでもない、と出来るだけ普段どおりに答えたつもりが、自分でも驚くくらい、冷たくて平静な声がこぼれた。
 空気を悪くしてしまっただろうか。
 そうは思うけれど、もう、どうにもできない。
「やっぱり疲れてるみたいだな。帰る支度してこい」
 ぽんぽん、と頭を撫でる兄。
 普段ならうれしいけれど、今は汗をかいているし、あまり触ってほしくない。
 いや、それだけじゃない。そんなことじゃない。ささくれだった心が、兄の手を拒絶してしまう。
 振り払うように兄の手から逃れて、荷物を取りに行く。
「紗友希ちゃんはどうする、乗っていく?」
「大丈夫、うちも迎えくるから。ありがと!」
「また来てくださいね。あんな佳林ちゃん、また見てみたいし」
 バッグを担いで戻ってくると、紗友希と朋子が、兄に向かって笑顔を向けている。普段なら気にならないはずなのに、紗友希の笑顔まで、心の表面を逆なでにしていくようで、見ているのがつらかった。
「じゃあ、お先に」
 二人とは目も合わせず、ぺこりと頭を下げる。兄が二人に何か声をかけているのを背中で聞いて、楽屋を出た。
 胸が苦しい。
 なんでこんなに。
 なんで、こんな。
 こんな私、嫌だな。

 先に出た私だったけれど、間を置かず兄が追いつく。
 兄がこちらに手を伸ばしてきたので、何のことかと見上げると、
「荷物。疲れてるんだろ」肩にかけていたバッグを取ろうとする。
「いいよ、これくらい」
 遠慮したわけではなく、私はそれを拒絶してしまう。
 小さくため息をついた兄は、私の拒絶に構わず、バッグを奪い取った。
 あ、と小さく漏れる吐息。
 私の細い肩に食い込んでいたバッグは、兄の片手で軽々運ばれる。
 歩いていく兄と、足を止めた私。大きくて広い兄の背中を、私はその場にとどまり、見つめている。
 しばらく歩いて、私がついてきてないことに気づいた兄が、振り返った。
「大丈夫か?」
 口を開こうとして、うまく声が出ない。何かを言おうとして、何か言わなければいけない気がして、でも、それは形にならなくて、わずかに開いた唇から、呼吸だけが通り過ぎ、再び閉ざした。
 兄が戻ってくる、ほんの数歩。
 私の中に緊張が生まれる。
 なんでだろうか。
 わからない。
「体調悪いのか?」
 額に手を当てて熱でも計ろうとしたのか、兄が手を伸ばしてきた。
 その手が私に触れるより早く、
「おにいちゃんってさ、ともみたいな子が、好みなの?」唇の隙間から、空気がこぼれるように、言葉が転げ出した。
 兄の手が止まる。小さく、けれどはっきりと見開かれる目。
「ともって?」
「金澤朋子ちゃん。さっき会った……」
「さっき会ったばっかりの子を好きにはならないだろう」
「別に、ともが好きかって聞いたんじゃなくて、あんな感じの子が好みかって、聞いてるの」
「……どうしたんだ、佳林?」
 唐突な質問に、戸惑っている兄。
 なかなかはっきりと、答えてくれない。私の問いに、応えてくれない。
 確かに突然のことで驚いているんだろうけど、私にはそれがもどかしい。
 答えを聞けば、私は覚悟できる、決断できる。
 そう。
 やっぱり、二人は……
「おにいちゃんには、あんな感じの、ともみたいな子が、お似合いだと、思うよ」
 途切れ途切れに、絞り出すように、思ってもない言葉を吐き出した。
 喉を通り抜ける空気が、刃のように、毒のように、私自身を傷つける。
 それでも、口にしてしまった。言ってしまった。
 その言葉は、もう戻らない。なかったことには出来ない。
 兄は、
「そうか」と呟いた。
 いつもと同じような声で、表情で、けれど、瞳の揺らぎは見たことのない色合いに見えた。
 それきり兄は口を開かず、私の背に、支えるようにそっと手のひらを添えて、歩くように促す。
 温かくて、優しくて、力強い、手のひら。
 私はそれに従い、よろよろと、まるで病人のような足取りで歩き出した。

 車が発進するのと同時に、私は意識が重くなるのを感じ、襲い掛かってくる睡魔に身を任せ、目蓋を下した。
 隣で兄が何か喋っていた気がするけれど、私が答えないのですぐに静かになった。
 うまく聞き取れなかった。
 聞きたくなかったのかもしれない。
 意識が暗くなっていくのに、兄の声も遠いのに、ガラス越しの街の雑踏だけは、くっきりと聞こえて、このまま消えてしまうんじゃないかという錯覚に襲われる。
 いっそ、このまま消えてしまいたい。
 そんなふうに、思っていた。



[5] Re: かりん

投稿者: フォフ 投稿日:2015年 8月29日(土)22時31分42秒   通報   返信・引用 > No.2[元記事へ]

 食卓を挟んで、向かいに座っている兄。
 黙々と、箸を動かして食事を口に運ぶ姿は、どこか機械めいていて不気味にも映る。私、宮本佳林はさすがに慣れたけど、たまに外で食事をすると、変な目で見られることもある。
 両親は仕事でまだ帰ってきてない。
 兄と二人きりの食卓は、久しぶりだった。
 私は仕事の都合で外で済ませることもあるし、兄の帰宅時間や、両親の仕事の都合などが重なって、兄と二人きりと言うのはかなり珍しい。
 普段なら両親のどちらかが話しかけてきて賑やかな食卓なのだけれど、私も兄も自分から喋る方ではないので、テレビに映っているバラエティ番組が、静かなテーブルの上に音を広げている。
 最近、結婚したばかりというタレントさんが、MCの芸人さんにいじられて、照れた笑みを浮かべながらも、まんざらでもなさそうにしていた。
 イベント終わりの楽屋で、金澤朋子が兄に会いたいと言っていたのは、つい昨日のこと。
 否が応にも意識してしまう。
 まっすぐに見るのが気まずくてテレビに目を向けつつも、ついちらちらと兄に目をやってしまう。
 そんな私の様子に気づかないのか、気づいていて触れないようにしているのか、兄は黙々と箸を運んでいる。
 兄は食事中いつもこんな感じだから、別に沈黙に耐えられないというわけではない。
 けれど、今日ばかりは、静寂は私を落ち着かなくさせる。
 そして、口を突いて出た言葉は、
「おにいちゃんってさ……結婚ってしないの?」
 兄は不思議そうに眉を歪ませて、
「なんだ、唐突に」
「いやだって、いま番組でさ……」
 こんな言葉で不自然さは誤魔化せただろうか。
「……佳林」両手をテーブルの上に置いた兄が、低い声で言う。「結婚しないと出来ないは、違うことなんだぞ」
 目から光が消えたように思うのは、気のせいだろうか。
 こういうのを地雷を踏むっていうのかもしれないけれど、それよりも気になることがあった。
 あんまり気にしてなさそうだったけど、実は結婚したかったんだろうか。
 ……誰と。
 そんな相手が……?
 自分がそういうことに鋭いとは言わないけれど、兄のことはずっと、というより、じっと見てきたので、何かあったくらいは分かると思うけれど、そんな気配は感じられなかった……と思う。
 兄は、そうだなあ、と呟いてから、
「両親に孫の顔くらいは見せてやりたいけど……まあそれは、佳林に任せるよ」
「そ、そんなこと任されても!? 私、アイドルだしっ! そんな急に」
「別に今すぐとは言ってないだろう」
 自分の勘違いを冷静に指摘されて、驚きの代わりに恥ずかしさがやってくる。
「そ、だね……」
「まあ、順当に行ってもあと10年くらいは先だろう」
「10年後っていうと、おにいちゃんはもうアラフォーだね」
「……そうか。想像できないけど、いつかは来るんだよなあ」最近、時間が過ぎるのが早い、と唸るように呟いた。「佳林が妹になってから、もう10年だしな」
 あっという間だったなあ、と兄は呟く。
 けれど私は、それに頷きながらも、心の中では反対のことを思っていた。
 長い長い10年だったと思う。
 ちっちゃい頃は、単純に一緒にいられて、甘えられて嬉しかった。
 私の思いが、いつか届くんじゃないかと、期待した日もあった。
 でも、そんな日は来ないと思い、つらい日々もあった。
 今は、一緒にいられるだけでいいって思っている自分と、想いが届くことを願っている自分とが、鬩ぎあっている。
 兄はどう思っているのだろうか。
 どう、思っていてくれるんだろうか。
「おにいちゃんの好みって、どんな感じ?」
 唐突な質問だったけれど、話題が戻ったと思ってくれたようで、、
「……まあ、おれより背が低い人はちょっとな」真面目なんだかふざけているのか、そんなふうに答える。
 190センチ近い兄より大きい女性。
「いないじゃん!」
「いなくはないだろ、バレー選手とか」
「いや、それでもだいぶ少ないと思うけど……」外国に目を向けても、たぶん出会いはかなり厳しいと思うよ……「だいたいなんで、そんな条件なの?」
 あんなに大きな熊井友理奈さんだって、180ちょっとだと言うのに。
「年取って俺に介護が必要になったら、大変だろ。奥さんが小さいと」
 ただの冗談かと思ったら、意外と根拠のしっかりと考えた答えで驚く。そんな先のことまで見据えての条件だった。
「介護が必要になったら、プロに任せたらいいじゃない」
「そうだが……そればっかりでもなあ」
 兄の言わんとすることは解る。
 でも本当にそれだけで、今まで相手がいなかったのかとなると、疑問だ。
「まあ、だから、結婚は無理かな」
 これも冗談なのか本気なのか、よく判らない響きが含まれていた。
 兄の事をいろいろ解っているつもりだったけれど、やっぱり分からないことの方が多い。
「じゃあ、おにいちゃんが年取っても独身だったら、私が、一緒にいてあげるよ。寂しくないでしょ?」
 出来るだけ冗談っぽく。
 本気で言う。
 本当の想いを、冗談にしてしまった。
「ばか言うな。お前には、両親に孫の顔を見せるという重大な使命があるだろう」
 私とおにいちゃんの間に子供ができたら……なんて言葉が浮かんできて、私はそれを飲み込んだ。
 さすがにそれは、そこまでは踏み込みすぎだ。
 言葉を、想いを飲み込む私の代わりに、兄が口を開く。
「でもまあ、それも良いかもな」
 こぼれ出るような、小さな言葉。
 そう言ったきり兄は、視線をテレビに向けてしまった。
 私は、言葉を返すことができなかった。
 飲み込んだはずの言葉が、想いが、飛び出してきてしまいそうで。
 10年間、胸の奥に留めてきた思いが、大きく膨らんでいるのが分かる。
 ずっと一緒にいたい。
 この想いが、伝わってほしい。

 やっぱり私は、この人のことが好きで、誰にも渡したくないと思っている。

 甘く、苦い、想い。



[4] (無題)

投稿者: フォフ 投稿日:2015年 7月18日(土)23時50分0秒   通報   返信・引用   編集済

「なにこれモー! ちょーバカっ!」
 隣にいた高木紗友希が唐突に、悲鳴みたいな声を上げる。
 なになに、と、紗友希を挟んで反対側の金澤朋子が手元をのぞき込む。そこでようやく、紗友希のスマホに何か届いて、それについて声を上げたらしいということを理解できた。背中合わせで座っていた宮崎由加は、膝の上に植村あかりが寝転んでいて、こちらに来られないようだ。あかりはこういう時にすぐに食いついてきそうなものだけど、たぶん眠いんだろう。よくあることだ。
 スマホを覗き込んだ朋子が、キャハハ、と割れるような声で笑う。
 どれどれと、私、宮本佳林も、紗友希が持つスマホを覗いてみると、アプリで落書きをされた紗友希の画像が送られてきていた。
 一言でいえば、猿を果てしなく面白くしました、みたいな。
 こらえようとした笑い声が唇から、ぷふっ、と可笑しな音が漏れる。
 紗友希に睨まれて口元を隠しながら、顔をそむける。肩ごしに見ると、紗友希は朋子を睨むけれど、朋子は構わず笑い転げたままだ。
 こみあげてくる笑い声をこらえながら、
「誰から?」と聞くと、
「妹っ」と、吐き捨てるように答えた。
「ケンカでもしたの?」と聞くと、紗友希は唇を尖らせた。
「私の服勝手に着るなって言っただけ」
 至極まっとうなことしか言ってないのに、こんな仕打ちを受けるのか。
 姉妹のいない私からすると、新鮮なことだった。服の貸し借りって、ちょっといいなって思ったけど、そのせいでこんな画像を送られてくるなら、あまり良いことでもないのかな。
 居もしない姉妹との喧嘩を空想しそうになった私の意識を引きもどしたのは、紗友希の一言だった。
「あーあ、いいなあ。佳林は」
「え? なにが?」
「だって、あんなイケメンのお兄さんいてさー」
 不意に兄の話題を振られて、慌てる私。
 心臓を叩かれたみたいな大きな動機で、言葉が出てこない。
「え、佳林ちゃんのお兄さんイケメンなの?」
 意外なことに朋子が食いついてくる。
「そ、そんな、いやあ、よく判んないかな。おにいちゃんだし」
 身内だからわからないとごまかそうとしたけれど、
「そんなこと言って、お兄さんがイベントに来た時、デレデレだったくせに」紗友希のツッコミ。
 たぶん正解だろうけど。
 なんて言い訳しようかと、あたふた続きで言葉が出ずにいる私を置いて、
「写メとかないの?」
 朋子が重ねてくる。
「な、ないよ」
 本当はあるけれど、なんだか嫌な予感というか、朋子には教えない方がいいような気がした。なぜだか分からないけれど、そんな気がした。
 そうなんだ、と残念そうな声を漏らす朋子に、私は少しだけ安心した。じゃあ撮ってきてよ、とは言いそうにない雰囲気だった。
 だったのに。
 刺客は意外なところからやってきた。
「あたしあるよー!」
 由加の膝の上を堪能していたあかりが起き上がり、机に置いたままだったスマホを引っ掴んで朋子に駆け寄った。
「え、なんでうえむーが持ってんの!?」
 私が戸惑い、悲鳴じみた声で問いただすと、
「りんかの迎えに来てた時に撮った」とスマホを操作して、朋子に渡した。
 そういえば、レッスンやイベントの時に車で迎えに来てもらったことがある。先月あったイベントの時にも、ホテルまで迎えに来てもらっていた。
 奪い取ろうかとも思たけれど、そういうわけにもいかず、空中をさまよう私の手。スマホを覗き込んでないのは、自分のスマホを操作している由加だけだ。
 絶体絶命。
 そんなわけないけど、それほど追いつめられたような気分だった。
 あとは祈るだけ……
「て、なにこれ」
 朋子が急に冷めた声をこぼす。
「顔写ってないじゃん」
 紗友希は反対に、言いながら大声をあげて笑う。
 ひょっとして。
 あかりのスマホを覗いて、胸をなでおろした。
 どこかから飛んできたチラシが、兄の顔の半ばを隠していた。冗談のようだけど、ブログにアップロードするために、アプリで隠したみたいに、狙ったように隠している。隣には兄を見上げて満面の笑みを浮かべている私がいた。恥ずかしい。けれど、朋子も紗友希も私の表情は目に入ってないようだ。
 昔からなぜか、兄は写真に写らない。写りにくい。
 なぜか、そうなのだ。
 撮ろうとしたらたまたま飛んできた鳥がカメラと兄の顔の間を横切ったり、友人の指がレンズにかかっていたり、運転免許証の証明写真を撮る時ですら、機械の故障で撮り直しをしたほどらしい。
 兄がまともに写っているのは、卒業アルバムと運転免許証、それからその特性のようなものをよく知っている家族が、根気よく何度もチャレンジして撮った写真くらいなものだ。私のスマホに入っている画像も、そうやって何度も失敗を繰り返して撮影したものだ。スマホ壊れるんじゃないか、と脅されてびくびくしながら撮った。
「他にないの?」
 朋子に問われると、唇を尖らせて、
「だってこの後、マネージャーさんに呼ばれたから」
 朋子の手からスマホをひったくり、由加の膝の上に戻っていった。いや、戻っていったはおかしいか。
 別に怒ったわけじゃないのに、と朋子は半ば呆れ顔であかりを見送り、ようやく解放されたと安堵していた由加は、すぐに戻ってきた重みに、半ば泣き声で不満を漏らしていた。
「でも、口元見るとけっこうかっこよかったね」口元は。「あと背が高い。佳林ちゃんの倍くらいあるんじゃないの」
「そう、なんか、首痛くなるくらい大きいよ!」
「へー、会ってみたいなあ」
 紗友希と会話が盛り上がっている朋子が、こちらにちらりと、意味ありげな視線を送る。
 瞳の奥にある光に、ぞくり、と背筋が寒くなるのを感じた。
 私は慌てて目を逸らした。
 不自然だったのは分かっているけれど、私の中には確かに、不安が宿っている。

 兄の隣に立つ朋子。
 楽しげに笑う二人。
 兄と付き合う女性、結婚する女性を想像しようとしてできなかったのに、その想像が容易にできてしまう不安。お似合いに思える不安。
 私の中の兄の人物像からすると、ひょっとしたら、兄の好みは、朋子のような人なのかもしれない。
 そんな、不安。

 もしそうなったら、私は──祝福できるだろうか。



[3] Re: かりん

投稿者: フォフ 投稿日:2015年 2月 1日(日)00時16分46秒   通報   返信・引用   編集済 > No.2[元記事へ]



 兄が言ったとおりだった。
 補習が思ったより時間がかかって、帰る頃にはすっかり暗くなっていた。夕方を通り越えて、夜と言って差し支えない時間帯。
 夕方くらいから雲行きが怪しくなり、電車に乗った時には雨粒が窓を叩いていた。
 不意打ちの雨だったからか、コンビニに傘を買い求める人が多かったようで、私が買いに行った時にはすでに売り切れ。
 兄は預言者の才能があるのかもしれない。いや、そうだったら、家を出るときに教えてくれてたんだろうけど。
 兄を思い出すと、電車でのことがフラッシュバックして、一人で赤面する。
 誰も見ていないと思うけど。
 ドキドキもしたけれど、がっかりもした。
 あまり、将来のことは考えていない。考えられない。普通に考えたら、兄もそろそろ結婚してもおかしくない年齢だ。
 でも。
 耐えられるだろうか。不安だ。兄が連れてくる女性を、兄の嫁として、義理の姉として、受け入れられるだろうか。
 今まで何度も想像しようとして、出来なかった。
 すっかり真っ暗になった空を見上げて、一人、ため息をつく。
 将来のことよりも、まずは目の前の問題を解決せねば。
 両親ともに帰りは遅いし、兄に助けを求めようか。兄の仕事が終わるまで、近くのファミレスかファストフードに入って待とうか。
 それだといつまで待たないといけないか判らないし、ひょっとしたら兄は私のために仕事を切り上げて帰ってくるかもしれない。そこまで迷惑をかけたくはない。
 雨に濡れるのを覚悟で走って帰ろうかな。
 でも、濡れた地面を走るのは、いまだにちょっと怖い。Juice=Juiceとしてデビューしたころ、ジュリンという、まーちゃん、佐藤優樹ちゃんと組んだユニットのミュージックビデオ撮影の時に転んで、骨折してしまったことがある。そのせいで、メジャーデビューしたというのに、しばらくは座ったままでのパフォーマンスしなければいけなくなってしまった。
 あの頃の悔しさとか、メンバーやファンの方たちへの申し訳なさとか、つらい思い出でしかない。
 兄を待とうか。
 ちょっと歩いたところにあるデパートに入れば、傘くらい買えると思う。ついでにタオルと何か温かいものでも買えば、風邪を引くこともないだろう。うん。
 そう考えていると、ポケットの中で、スマホが振動した。
 着うたは兄からのものだった。
 なんだろう。
 首を傾げつつ、電話に出てみる。
『佳林、もう家に着いたか?』
「まだ。いま駅にいるけど、どうしたの?」
『ああ、ならちょうどいい……って、見つけた』
「? 見つけたって何を?」
『振り返ったら判る』
 言われるままに振り替えると、こちらをじっと見つめるスーツ姿の人物がいた。
 てゆうか兄だった。
「な、なに!? どうして、ど、どしたのっ?」
 スマホに向かって話しかけると、兄は通話を切って近づいてきた。
「早めに仕事を終わらせたから、ひょっとしたらどこかで合流できるかもなと思って連絡したら、まさか見つけられるとはな」
 意外と遅かったんだな、と兄。
 うん、と頷くのが精一杯の私。
「コンビニで何か買っていくものあるか? 傘以外で」
「……別にない」
 今朝、からかわれたことを思い出して、声が冷たくなるのが抑えられない。
 兄はいつも通りの仏頂面で、それに気づいたのかどうか、よく判らない。
「じゃあ帰るか」
「え、でも、傘……」
「一緒に入っていけばいいだろう」
 ……え?
「え? いや、それって……でも……」
 あ、あいあいがさっていうんじゃあ……
「じゃあ、俺が家に傘を取りに行ってくるから、それまでここで待ってるか?」
 ぶんぶんと、風を切る音が聞こえそうな勢いで、首を振って否定する。
 おにいちゃんと相合傘って、ひょっとして、初めてじゃないかな……

 パラパラと傘を打つ雨音。
 隣にはおにいちゃん。いつもより近い。ずっと近くてドキドキする。
 いや、たぶん距離のせいじゃない。
 相合傘ってドキドキする。
 隣をちらりと見上げると、兄はいつもの無表情。いつも通り。ドキドキしているのは私だけ、みたい。
 私ばかり好きみたいでズルい。
「あー……なんだっけ」
 一人でむくれていると、不意に兄が呟いた。
「ん、なにが?」
「いや、こんな曲があったなって思って」
「曲、ハローの?」
「あぁ……なんだっけ、ほら、亀井って子が歌ってた。夕方には雨降りとか」
「ああ! タンポポ#の『アンブレラ』だね」
 そんなタイトルだったな、と思い出したようだ。
 夕方じゃなくてもう夜だけど。


 夕方には雨降りみたいね

 あなたに会いに行きたい

 アンブレラ持って迎えに行けるわ

 やったね口実が出来るもん


 雨音を伴奏に、私の口から自然と歌が零れた。
 それそれ、と兄が小さく笑った。
 そういえば私が初めて大きなステージに立ったのも、この歌が発表された頃だった。
 ハロプロエッグになってすぐ、『新ミニモニ。』というユニットに選ばれて、はしゃいで、公演を見に来てくれた兄にコンサートの感想を求めたところ、亀井絵里という子がかわいかったな、と返ってきて、ふくれっ面になったのを今でも覚えている。両親は、私のパフォーマンスを見ていなかったことに腹を立てたんだと、兄を窘めていたけれど、そうじゃなかった。
 亀井さんみたいな人が好みなんだろうか、と本気で悔しく思った。筋違いにも嫉妬した。
 今では恥ずかしい思い出だ。


 恋人同士に見えないよって友達に言われた

 仲良い「キョウダイ」みたいなんだって

 どっちが上なのよ

 どっから見てもお似合い

 ラブラブなのにね


 私たちはきっと、「仲が良いキョウダイ」で、どっちが上とか、考えるまでもない。下手すると親子に見られるかもしれない。ましてや、どこから見てもお似合いのラブラブな恋人でもない。私たちのことを、恋人同士に見間違う人なんて、いないんだろうな。
「どうした、歌わないのか?」
 兄に言われて、歌が途切れていることに気付いた。
「ん、歌詞、忘れちゃった」
 笑ってごまかす。
 そうか。短く、兄が返す。
「最後は熱いチューで仲直り」
「な、なに!?」
 急にバリトンで何を言い出すんだ。心臓が飛び出るかと思うほど驚く。
「そんな歌詞があっただろ。ケンカもしょっちゅうとか」
「あ、あったけどさ」
 その部分を歌うのをためらって、歌詞を忘れたふりをしたのに。
 兄の表情は、先を促すようだったので、忘れたふりをした続きを口ずさむ。


 確かにケンカするし

 結構しょっちゅうだし

 みんな驚くけど

 でもストレスを溜めず

 最後は熱いチューで

 仲直りよ

 幼馴染でもなく

 出会ってまだ半年

 だけど不思議ね

 ずっとずっと前から

 知ってるみたい

 なのにね

 一日会えなきゃ

 壊れそうになる

 なんだか変な私

 どうぞヨロシク


 なんだかんだで、1フレーズ歌いきってしまった。
「まあでも、ケンカなんかしたことないからな。仲直りっていう経験もないな、そういえば」
「そうだね」
 年が離れすぎているからか、兄の人柄なのか。私が懐いていたからかもしれない。まあ、全部かな。
「ケンカはしなかったけど、佳林の態度がおかしかった時期はあったな。2年くらい前だったか」
 確かに、あった。
 今でこそこんな風に相合傘に入っていられるけれど、兄を避けようとしていた時期がある。
 どうせ叶うことのない思いなのだから、いっそ嫌いになろう、嫌われようと振る舞った。ハロプロ内で行われたオーディションに落ち続けて、心が荒んでいたことも加わって、相当ひどいことを言ったと思う。
 両親も心配するほど徹底した態度だったけれど、私の冷たい態度もキツイ言葉もどこ吹く風で、兄は接し方を変えなかった。泰然自若というらしい。
「まあ、私にも反抗期くらい来るよ」
「え、反抗期のつもりだったのか?」
「つ、つもりって何っ?」
「言葉を選んでキツイことを言って、その後フォローするようなこと言ったり。そういう態度を取った後、顔色窺ったり。中二病ってやつかと思ってたぞ」ちょうど時期だし。
 そ、そんな風に思われてたのか……
 自分では徹底していたつもりだったけれど、そんなに下手だったのか。ひょっとして、兄だけではなく、両親にも同じように思われていたのかな。
 途端に恥ずかしくなってきた。
「まあ、反抗しきれないのが、佳林の佳林らしいところだろうな」
「ど、どういうこと?」
「んー……もうちょっと、わがまま言ってくれてもいいんだぞ。アイドルになりたいって言った時くらいだろ、お前がわがまま言ったの」
 今まで『いい子』だった私が、初めて主張したやりたいことだった。
 両親は戸惑ったけれど、兄は賛成してくれた。必要なことがあったら自分も協力する、と。
 そうしてハロプロエッグになれて、最初は良かったけれど、それからはずっと芽が出なくて。落ち込んで泣いたりもした。母は自分で選んだことなんだからと、挫けそうな私を叱り、父は辛かったら辞めていいと慰めてくれた。
 そして兄は、変わらなかった。
 私が辛くて泣いていても、悩んで落ち込んでいても、八つ当たりをしてキツイ(つもり)のことを言っても、大木のように小動もしない。
 そばにいて、隣に来て、ただ私を支えてくれた。私の思いを守ってくれていた。目印のように、ずっと同じ場所に立っていてくれた。
 だから私は、いろいろ迷っても、悩んでも、大丈夫だったと思う。時々、兄がいる場所を見て、そこにいてくれることを確認して、先に進めた。
 そんな兄を、心から嫌えるはずもなく、デビューが決まった頃から、『嫌いなふり』はやめることになった。無理やり嫌いになろうと思い詰めていて、ずっと息を止めていたみたいに苦しくてたまらなかった。あのまま兄に対して『嫌いなふり』を続けていたら、心が窒息死していたんじゃないかと思う。
 急に態度が軟化しても、やはり兄は変わらなかった。
 そんな兄が言うのだから、どんなわがままも許してくれるんじゃないかと思う。
 けれど、本当に、一番聞いてほしいわがままは、きっと受け入れてはくれない。
 私がそんなわがままを口にしても、兄は変わらずにいてくれるだろうか。
 いや。
 こんなにも、こんなにも好きな気持ちは、きっと届かない。
 雨音に紛れて言葉にしてしまおうか。
 そんなこと、できるわけない。
 それでも。

 それでも、ダイスキ。

 雨に閉ざされて、兄と二人きりの傘の下。
 肩が触れ合うほど近くにいるのに、隣の兄は遠く感じる。
「私たち、その、キョウダイじゃなかったら……どう、見えるだろうね」
 ほんの少しだけ、半歩だけ、いや、4分の1歩だけ、踏み込んでみる。
 兄はしばらく視線を泳がせて、
「そりゃあ……なにかこう、犯罪めいた」妙に沈んだ声で呟いた。
「考えすぎだよ!」
「そ、そうか……?」
 こくこくと頷くと、安心したように溜息をついた。割と本気で心配していたらしい。
 さすがに犯罪まではいかないだろう。たぶん。
「佳林はどう思う? どう見えると思う?」
「え、そうだな……キョウダイには、見えないんじゃないかな……」
 キョウダイじゃなく、恋人に見られたい。
 とは言えない。
 さすがに。
「佳林は、俺とキョウダイが嫌なのか?」
 いやだ。
 そう答えたかったけれど、言葉に詰まる。表情を見られたくなくて、俯いてしまう。
 返事がないことで私の答えを察したのか、私の言葉を待たずに兄が続けた。
「キョウダイになってなかったら、きっと俺は佳林と出会えなかったと思うんだ」
 俯いた私は、兄の言葉に衝撃を受ける。
 街でばったり出会うなんてこと、きっとなかった。
 たとえ出会っていたとして、恋人になれることなんて、なかっただろう。
「俺は、佳林と会えて良かったって思ってる」
 俯いていた顔を上げ、私は兄を見上げた。
 見下ろす兄は、瞳に優しい色を揺らしている。
 私は──壊れそうになる。

 それって……
 それってどういう……!?

 体の内側で、花火みたいに鳴り響く、鼓動。
 火花が熱を持って、顔が火照ってくる。
 口を開いたら、そのまま心臓が飛び出していきそうで、黙ったままの私。
 しゃべらない私をどう思ったのかは判らないけれど、兄が言葉を続ける。
「佳林と出会えない一生よりは、キョウダイでも出会えた人生の方が、きっと幸せだと思うよ」
 その言葉はまるで。
 キョウダイという関係を受け止めているけれど、キョウダイとして出会わなければ、他の関係になっていたかもしれない。
 そう言っているようで。
 そう望んでいるようで。
 私には、そう聞こえてしまった。
 ひょっとして、兄もそんな関係を、そんな願いを、持っていてくれているのだろうか。
 考えすぎだ、と冷静に自分に言い聞かせようとする声は、胸の高鳴りでかき消されていく。

 それってどういう意味?

 聞きたいけれど、聞けない。
 心臓が爆発しちゃいそう。
 口を開いたら、心臓が飛び出していきそうで、唇を固く結ぶ。
 ただの勘違いかもしれないけど。
 でも。
 高鳴る胸を抑えられない。

 やっぱり私は──この人が大好きなんだ。


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